就業不能保険と医療保険の決定的な違い!どっちに入ればいいの?

就業不能保険は給付金の支払条件が『入院』だったり『医師の診断』が必要だったりと病気やケガを原因とする点で医療保険と似ている。よって、『医療保険にすでに入っているから就業不能保険なんていらないよね?』と考える人は多い。

まあ、一般の保険になじみがない消費者なら仕方ないだろう。

しかし、生命保険セールスやともすれば大手のポータルサイトなどににコラムを書いたりするようなFPが『収入の保障のために医療保険に入ることも検討しましょう』などと盛大に勘違い・あるいは舌足らずなことを主張したりするのだ。

あなたはこんな底の浅い知識に騙されてはいけない。

就業不能保険と医療保険は守備範囲が全く違う。その上、私は現状のほとんどの医療保険は『保険』などと呼べる代物ではないと思っている。

就業不能保険と医療保険の保障範囲の違い

『就業不能保険と医療保険は守備範囲が全く違う』と主張したが、それは保障内容の違いがあるのは当たり前だが、『なんのリスクに備えるのか』という加入目的の違いが大きい。よって勘違いしてはいけないのが、『保障内容が違うと言ってもどっちもケガや病気に備えるための保険でしょ?なら医療保険だけでいいんじゃないの?』と考えることだ。どちらも加入目的が異なるので個別に必要か不要かを判断する必要がある。

就業不能保険の保障内容

今一度、就業不能保険の保障内容について簡単におさらいしよう。

就業不能保険は、『病気やケガ』などを原因として『所定の就業不能状態』となり、それが一定期間継続(60日・180日など)してから毎月給付金(10万円・20万円など)がもらえる。医師に『就業不能状態』と判断されるような体調になりそれがずっと続くような場合(入院中でもよいし、医師に在宅療養を支持される場合でもよい)を想定している。医療保険のようにちょっと20日入院してまた社会復帰できるようなレベルでは就業不能保険は給付金がもらえない。

『それなりに長い期間入院しても、また働けるなら困るのは一時的でしょ?また給料をもらえるからいいじゃない!私はもっと長期間働けなくなって収入が得られないような困った人しか助けないのよ?』というのが就業不能保険の言い分だ。

就業不能保険について詳しくおさらいしたい人は『就業不能保険の保障内容の基礎知識を徹底解説!』を参考にするとよい。

医療保険の保障内容

一方で医療保険は、『病気やケガ』などを原因として『入院・手術したとき』に給付金がおりる。いまは入院1日であっても給付金がもらえる時代だ。比べればわかるが就業不能保険より圧倒的に給付金をもらうためのハードルが低い。しかしこれをもって医療保険が就業不能保険の上位互換だと思ってはいけない。

医療保険は給付の上限が低い上に、『入院・手術しなければもらえない』のだ。一般的な医療保険は1回の入院あたり60日または180日が限度で、通算で3年分くらいが給付の限度であることが多いのだ。もちろん30日入院したあと医師に在宅療養を指示されたら給付金は30日分しかもらえない。

『入院・手術すれば1日の入院でも給付金を出すよ!なんて気軽にお金を配るんだろうか!え?長期入院?そんな入院し続ける人のことなんてしらないよ?僕は60日(180日)分しか出さないからね?在宅療養?なんで入院してない人にお金ださなきゃいけないの?』というのが医療保険の言い分だ。

以上の就業不能保険と医療保険の違いを表にすると以下のような形になる。

就業不能保険 医療保険
支払条件 所定の就業不能状態
(入院または在宅療養(要・医師の診断))
入院・手術
支払開始 所定の就業不能状態となってから60日(または180日) 日帰り入院から
支払限度日数 保険期間が満了するまで 1入院当たり60日
(または180日)

図にしてみると就業不能保険と医療保険の保障範囲の違いがさらにわかりやすい。

私が『就業不能保険と医療保険は守備範囲が全く違う』と言ったことがよくわかるだろう。

今の表と図を頭の片隅に就業不能保険と医療保険の加入目的(なんのリスクに備えるか)を考えてみよう。

就業不能保険や医療保険を『何のリスクに備えるか』という観点で考える

『医療保険がお勧めされる理由』の一つとして『働けなくなった場合の収入の代わり』という観点が挙げられる。

まさに、働けなくなった場合には収入が途絶える『かもしれない』ことは非常に重大なリスクだろう。働けなくなって収入が無くなったとしても、生活費(場合によっては治療費)はかかるのだ。

例えば毎月20万円の生活費が必要だったとして、その後30年間でいくらの生活費がかかるか簡単に計算してみると、合計で7200万円かかる。『7200万円貯金があるか』と言われたら、無い人がほとんどだろう。仮に働けない期間が3年程度でその後回復し働けるようになった場合を想定しても、たった3年で720万円かかる。このような『長期間働けなくなり収入が途絶える』というリスクは誰にもある。

さて、就業不能保険はまさにこのようなリスクに備えるために作られているので、就業不能保険に加入した場合はこのようなリスクについて心配する必要はなくなる。一方、医療保険は『長期間働けなくなり収入が途絶える』リスクに備えられるだろうか。

先ほどの図をもう一度載せて見てみよう。

医療保険の場合せいぜい働けなくなって60日(180日)間しかお金はもらえなさそうだと分かるだろう。先ほども指摘したが、入院せずに早々と在宅療養を医師に指示されたらその短い期間の給付金すらもらえないではないか。どうも、『長期間働けなくなり収入が途絶える』リスクには医療保険は役に立たなそうだ。

では比較的短期間働けなくなり、その間収入が途絶える場合の備えについてはどうだろうか。

60日や180日といった期間働けない状態でその後また仕事に復帰できる場合は、就業不能保険では支払対象期間外であるかもしれないので就業不能保険の守備範囲ではない。

では医療保険はどうか。医療保険であれば『入院すれば』給付金がおりる。働けない間ずっと入院していれば医療保険は収入の補てんになるだろう。入院していれば・・・しかもずっと・・・

現代では入院期間はどんどん短期化している。理由はベッドが満杯だったり医師や看護師が不足していたりする一方で、高齢化により患者数は増えるばかりだ。病院側では長期で入院させるより早いところ追い出したいのだ。病院の収益上、長期入院は収益性が低いという問題もある。手術技術も発達し日帰り手術で治療できる病気も増えている。入院日数は今後ますます短期化していくだろう。

つまり、医療保険を60日・180日程度の収入の補てんとしてあてにするのは効率が悪いと言わざるをえない。入院しなければ給付金はないのだから・・・

あなたが直面するリスクは保険で備えるべきものか・そうでないのか

就業不能保険と医療保険の守備範囲の違いはわかっただろう。就業不能保険は働けない状態がある程度長期化したときの収入の補てんに利用できる。一方医療保険は長期どころか短期間の就業不能状態にすら対応できないかもしれない。

まとめると、『働けなくなった場合に収入が無くなる』リスクに備えるために医療保険に入るのは非効率極まりない。ほとんど役に立たない。

一方で就業不能保険も万能ではない。短期間の就業不能状態に対しては支払対象期間外だからだ。

では、60日とか180日程度の就業不能保険の支払対象外期間の保障はどうすればよいのか。医療保険は頼りにならない。

ここであなたに考えてほしいことがある。保険という商品を考える上で基本になる事柄だ。それは保険で備えるべきリスクとそうではないリスクを考えることだ。

当たり前だが、生命保険に加入すれば保険料を支払わなければならない。そしてあなたが支払える保険料は予算に限度があるはずだ。あなたは大きいリスクから小さいリスクまで全て保険で備えるわけにはいかない。そうでなければ『生命保険貧乏』などと呼ばれる状態になるだろう。

さて、『働けなくなり収入が無くなる』リスクについてもう一度考えてみよう。

60日、180日程度の短期間だけ働けなくなりまた仕事に復帰できるなら、そのリスクはどの程度大きなものなのだろうか。2カ月、6カ月という期間だ。あなたは2カ月・6カ月分の生活費の貯蓄すらないのだろうか。貯蓄があるなら、その程度のリスクは貯蓄で対応するという考え方も十分あり得るのだ。そして貯蓄がないならば短期間働けなくなるリスクを考える前にそもそも今の生活を見直すほうがよっぽど大事だ。保険など入っている場合ではないかもしれない。

一方、長期間働けなくなるリスクについてはどうだろうか。2年・3年と働けなくなる状態が続き、場合によってはそのままずっと・・・
その時に必要になる生活費は何千万円という単位になるだろう。通常そのような大金の貯蓄がある世帯は多くないだろう。このような大きなリスクは一般の個人に対応できるリスクではない。保険はこのような『起きると自分ではとても対処しきれないリスク』に対応するために加入するのだ。人身事故を起こしてしまった場合に備える自動車保険、自宅が火事になったときに備える火災保険などと同様だ。

まとめると、『短期間働けなくなるリスクに備えるのは本当に保険が必要なほどだろうか、ある程度のリスクは貯蓄で対応する考えもあるのではないか』ということだ。場合によっては雇用保険や健康保険など社会保険がその補てんになる場合もある。

生命保険セールスの言う通り『あれもこれも心配』と気にしすぎていたら、保険料を支払いすぎて今度はあなたの現在の幸福度が下がるだろう。あなたの価値観と折り合いをつけて保険に加入するのは『どうしようもないリスクに備える』程度でよいのだ。

あなたは自分の家で突然床に穴が空くリスクまで心配するか?通勤途中にうっかり他人と口論になり、ついカッとなって相手を怪我させるリスクまで心配するか、北海道に旅行にいくとき、なんらかのトラブルで空港が閉鎖され旅行にいけない場合のキャンセル料の心配までするか。それらをすべて保険でまかなおうとするか。

程度は違うが短期間の『就業不能状態』について心配してもいいが、心配しすぎで保険料の払いすぎで困窮しないようにしてほしい。わざわざ『その程度のリスク』のために医療保険に入るべきかどうか考えてほしい。ましてや医療保険は入院しなければ役に立たないのだ。

一方、長期間働けなくなる場合は、もし起こってしまうと重大な危機となるだろう。あなたの貯蓄では到底対応できない。自分で対応できない大金がかかるリスクのために保険で備えるのは非常に合理的な話だ。働けなくなり収入が無くなるという事態は多くの人にとって普段は意識しないが存在するリスクだ。

以上、長文になったが就業不能保険と医療保険の違いについて理解できただろうか。

就業不能保険と医療保険は『働けなくなり収入が途絶える』リスクへの備えとして見た場合は守備範囲が異なる話をした。就業不能保険は支払対象期間外の問題で短期間の就業不能状態まで対応しない。短期間の就業不能状態への対応として医療保険に加入することを考えるかもしれないが、医療保険は入院しなければ給付金はない。在宅療養の場合には無力だ。そして、そもそも短期間の就業不能状態はわざわざ保険で対応するようなリスクかどうかをよく考えてほしい。あなたの支払える保険料は無限ではないはずだ。

一方、長期間就業不能となるのは起きてしまえばあなたの生活にとって重大な脅威となる。自分では対応しきれないリスクのために保険に加入するのは選択肢としては合理的だ。

私は就業不能保険は保険としてとてもまともな商品だと思っている。『自分では対応できないリスク』に備えるという意味で保険の意義が十分発揮されるからだ。あなたも就業不能保険は加入を検討すべきだと私は思う。

とは言っても、保険料負担の問題もあるし、全員が全員就業不能保険が必要となるわけではない。

『就業不能保険(働けなくなった時の保険)に関するあなたの疑問はすべてここで解決できる!』の記事を参考に就業不能保険の選び方やどういう人が必要なのか・不要なのかを学んでほしい。