私は貯蓄性の生命保険はいかなるものだろうと否定する。
唯一の例外は少額の年金保険だけだが、それ以外は本当に価値がないものだと考えている。
学資保険、終身保険、養老保険、健康祝い金付の全ての保険、最近では医療保険でも払い込み満了するとお金が返ってくるのがあったりするそうだが、これら全て無価値どころかあなたに有害である。
ああ・・・終身保険が相続対策で使えることはあるが・・・でも、大半の一般人には関係のないことだ。
これらの貯蓄性保険に加入する人は本当に思考停止で不勉強な人たちだと思う。まあ、それも仕方ないかもしれない。生命保険市場はセールス側が圧倒的に知識面で有利であり市場を支配していて、消費者にとって本当に必要な保険のみに加入できる見込みはほとんどない。
逆に言えばきちんと勉強し考える人は『貯蓄性の生命保険』などという有害なものに加入することなどしないということだ。
この記事では本当に金融商品を理解している人が貯蓄性保険など加入しない理由を解説しよう。
貯蓄性保険は積み立てる分の保険料を多く払うだけ
多くの人は掛け捨ての生命保険を嫌がり、少しでも戻ってくる保険に加入したいと思っている。少しでも貯蓄性のある保険に加入しようとすると、同じ保障金額でも支払う保険料は多くなる。生命保険会社は慈善事業ではない。加入者にお金を支払うときは、死亡保険金であれ満期保険金であれ健康祝い金であれその分の保険料を取る。
単純に同じ500万円の保険でも、純粋に掛け捨ての保険である場合と、満期で500万円戻ってくる貯蓄性の高い保険を比べたら保険料は段違いだ。例えば30歳男性が保障期間10年の500万円の純掛け捨ての死亡保険に加入したら最も安いところでは数百円払えば加入できる。一方、10年間の保険期間満了後、500万円戻ってくるような非常に貯蓄性の高い保険に加入しようとしたら、おそらく保険料は4万円を超えるだろう。10年間で500万円戻ってくるよう保険料を払わなければならないのだから現在の運用環境では4万円は最低必要だろう。
このように同じ保障金額でも貯蓄性を高くすれば保険料はそれに応じて高くなる。
貯蓄性の生命保険に加入することで失うとんでもないもの
『最終的にお金が返ってくる貯金みたいなものだから保険料が高くてもいいじゃないか』と思うかもしれない。しかしそれこそ論外なのだ。このように考える人は目先のことしか考えていないと言われても仕方ない。
貯蓄性の生命保険に顕著だが、生命保険は加入間もない期間で解約すると『解約控除』と呼ばれる解約手数料のようなものが存在する。これは生命保険の新規契約時には多くの費用(セールスの販売手数料など)がかかっているので生命保険会社の損失を抑えるために設定されている。この『解約控除』のせいで貯蓄性の生命保険は契約後数年間の解約は大きく元本割れするのだ。
上図のように、どんなに貯蓄性の高い生命保険でも、契約してしばらくの期間は解約返戻金が払った保険料の総額を下回る。
銀行預金ではこのようなことはない。銀行にお金を預けて翌日に引き出しても手数料が取られるようなことはない(ATMの時間外手数料とかはかかるかもしれないが)。
このことで貯蓄性の生命保険は事実上短期での解約に制限を受けていることになる。
さて、この解約することを躊躇してしまうような商品性のものに大きなお金を払い続けると大事な何かを失う。
『機会損失』という言葉は知っているだろうか。
経済学の用語で、簡単に解説すれば何かに注力したりお金をかけると、その分他の何かができなくなったりお金をかけることができなくなることだ。
例えばあなたのお小遣いが2万円と決められていたとしよう。
あなたはこの2万円でゴルフコースを一回だけまわることもできるし、ゲームソフトを3本だけ買うこともできるとする。ここであなたがゴルフに行けばゲームを買うことはできない。逆もまた然りだ。ごくごく当たり前の話だ。ゴルフに行くとゴルフにいくことで得られる利益(楽しむこととか)を得られる一方、ゲームを買うことで得られた利益(楽しむこととか)を得ることはできず、逆もまた然りだ。この失う方の利益を機会損失と言う(こんな例えでは経済学者に怒られるかもしれない)。
効率的に考えると、ゴルフかゲームどちらかしか選択できないなら、一方を実行することの利益が他方の機会損失を上回っていなければあなたはその分不満を抱くだろう。ゴルフに行ったことで得られた満足感が、ゲームで得られた満足感を上回っていなければ、ゴルフに行くことは効率的な選択とは言えないし、逆もまた然りだ。実際にはゴルフとゲームでは、選択の時点ではどちらが満足できるか判断し難いのが難しいところだ。ゴルフに言って調子が悪かったら不満だろうし、買ったゲームがクソゲーでも不満だろう。ちなみにゴルフもゲームもせず、2万円貯めるという選択肢も当然あり得る。この場合はゴルフやゲームの満足感よりも2万円貯めることの満足感が上回っていれば合理的な選択と言える。
話を貯蓄性の生命保険に戻そう。
貯蓄性の生命保険に3万円払うかと、同じ保障金額の掛け捨ての生命保険に1000円支払う場合を比べてみよう。どちらをとっても1000万円の死亡保障は得られるものとする。さて、ここであなたが掛け捨てをいやがり3万円の貯蓄性の生命保険に加入したことで失うものは毎月29,000円分の機会損失だ。『貯蓄性の保険なのだから解約して現金化すればいいじゃないか』と思っても先ほど述べた通り、貯蓄性の生命保険には解約控除があり、特に短期の解約に躊躇してしまうということを忘れてはいけない。解約すると余計な損失を負うこともあり得ると覚悟しなければならない。
あなたは貯蓄性の生命保険に入る代わりに毎月29,000円の資金が自由に使えなくなる。29,000円あればできることは色々あるだろう。貯蓄性生命保険などよりもっと有用な金融商品の投資先もあったかもしれない。あるいは子供の教育に投資することもできたし、あなた自身の消費に回すこともできたかもしれない。もちろん解約控除などなくいつでも自由に引き出せる銀行預金も選択肢としてはあり得る。
これらの機会をあなたは貯蓄性の生命保険に加入することで全て失う。あなたは本当にそれでよかったのかどうか十分検討して貯蓄性の生命保険に入っただろうか。ひょっとしたら掛け捨てを嫌がることよりもっと重要なことを忘れてはいないだろうか。
貯蓄性の生命保険より有望または安全と思われる投資先
貯蓄性の生命保険と他の金融商品を比較してより安全で有望なリターンを得られる商品があったなら、貯蓄性生命保険に入ることはそれらの重要な機会を逃しているということになる。リスクとリターンはお互いに相反する関係だが、貯蓄性保険より安全で有利な商品は存在している。また、多少リスクは高くなるが大きなリターンを得られる投資先というのも当然検討くらいはしてしかるべきだ。
日本国債
日本国債はいかなる生命保険商品より安全だ。何しろ国内の多くの保険会社が資産の大部分を日本国債で運用している。
日本国債がつぶれたら、生命保険会社も当然のように共倒れだが、逆にある1つの生命保険会社が潰れても直ちに日本国債の安全性に影響があるわけではない。1つの生命保険会社が販売する貯蓄性生命保険より、日本国債のほうが安全なのはほとんど疑う余地がない。
そして、多くの場合日本国債と貯蓄性生命保険のリターンは似たようなものになる。それも生命保険会社の資産運用の多くが日本国債で運用されていることに起因する。生命保険会社のほうが株式などリスク資産にも一部投資しているので若干リターンが有利な部分もあるが、生命保険を購入するのと日本国債を購入するのでは購入時にかかるコストに差があるのでそのような有利な部分はあってないようなものだ。
似たようなリターンでより安全な投資ができるのだから、貯蓄性の生命保険などに入るより日本国債を買う方がよいという考えができる。あまり一般にはなじみがなく、購入単価が高いのが国債の弱点だが。
少額の年金保険
同じ生命保険商品の間でも優劣がある。とは言っても一部分だけだが。
その正体は年金保険である。年金保険は通常の生命保険料とは別枠で支払った保険料の一部分を所得控除に利用できる。所得控除が効けばその分税金が安くなるので、通常の年金保険の投資リターンとは別の利益を享受できることになる。無目的に終身保険や養老保険などに大金を払うより同程度のリスクで有利なリターンが得られることになる。
ただし、年間で受けられる所得控除額は、年間保険料で80,000円の部分までだ。年間80,000円以上の年金保険に加入しても所得控除の効果は大きくならない。年間80,000円以上の年金保険に入るのは、超過した部分については今まで解説してきたものと同様ただの賢くない生命保険の加入になるので注意だ。
ちなみに年額80,000円ということは月額で6667円程度だ。6667円までの年金保険なら通常の多くの貯蓄性保険より有利な投資先と言える。
インデックスファンドへの投資
毎月定額を支払う投資と考えれば、株式のインデックスファンドに毎月定額を積み続けるのは有望な投資方法だ。株式である以上リスクは上がるが、長期の定額投資と考えれば、値上がり・値下がりのリスクは平均的なものに均される。株式が高い時だろうと低い時だろうと関係なく機械的に定額を投資し続ける。これが長期間になれば事実上、値上がりと値下がりのリスクを大きく減らすことができ、株式本来の価値のリターンを享受しやすくなる。またインデックスファンドであれば、たくさんの銘柄の集まりであるので個別の企業が倒産しようとファンド全体にはそれほど影響がない。個別の倒産リスクも大きく抑えられる。
もちろん株式の集まりである以上、値下がり・値上がりのリスクを完全に抑えることはできない。しかし、インデックスファンドに長期間定額を投資し続ける手法は世界的な著名投資家であるウォーレン・バフェットという人物も、一般の投資家の有効な投資方法として推奨している手法だ。
貯蓄性保険に加入して、解約すら躊躇し資金を拘束されるくらいなら、こうしたややリスクのある投資でより有利なリターンを狙うのも検討すべきだ。
生命保険会社には多くのお金を払うと損をする
生命保険商品とはそもそも効率の悪い商品だ。これは貯蓄性の保険だろうが掛け捨ての保険だろうが変わらない。生命保険商品が売れるとセールスなり代理店なりに手数料が支払われる。この時点で貯蓄性保険に加入した時点で元本割れするのだ。解約控除の存在はこのセールス達が受け取る手数料の存在が大きい。またたかが金ころがしに過ぎない保険事業にも関わらず、生命保険会社に勤める社員は非常に多くの給料をもらっている。このような保険会社があまりに多い。一方で、効率化されたネット系の生命保険会社などは大手の生命保険会社より圧倒的に安い保険料を実現できている。したくてもできないのかもしれないが多くの生命保険会社は非効率な運営をしている生命保険会社ということになる。
このような生命保険会社で生命保険を加入するということは、貯蓄性保険と言えど毎月非効率な運営のために保険料の一部が消えていくことになる。保険料を多く払えば払うほど、多くのコストをあなたが保険会社のために支払うことになると言ってもよい。
よって、別段有利でもない貯蓄性保険にわざわざ多額の保険料を払ってまで加入してやる意味などないのだ。これは掛け捨ての保険にも言える。ただし、掛け捨ての保険は必要な場面もある。
だから、最終的には貯蓄性保険は一切加入せず、必要なだけの掛け捨ての生命保険に入ることが最適解となるのだ。浮いたお金で代替の投資先を探すもよいし、あなたの自由に使ってもよい。
最後にあなたに私が平素考えていることをお教えしよう。
生命保険会社に1世帯で月額5000円以上払っていたら黄色信号、月額1万円以上払っていたら赤信号。