生命保険が法人の節税プランになるかどうかは国税庁の気持ち次第!

生命保険会社はまったく無責任だ。

ある日突然『節税保険』が節税にならなくなる?

法人向け生命保険に加入する経営者、特に『節税プラン』の生命保険に加入する経営者は、そうしたリスクのある『節税プラン生命保険』が売り逃げされているものだと思うべきだ。

あなたはきちんとした知識を持って、『節税プラン』なる生命保険に相対しなければならない。

『節税プラン』の生命保険はいつ節税ではなくなるか分からないリスクがある上に、下手をすれば追徴課税すらありうるのだ。法人にとって最も恐ろしいことの一つは大きな割増がされた追徴課税だということをあなたは忘れたわけではあるまい。

節税プランの生命保険がかつてないほど大人気

生命保険セールスは昔からそうだが、多くの中小法人の経営者を言いくるめて『節税プラン』なる生命保険を売りつけている。こうした保険は確かに表面的には画期的な商品のように思われる。

典型的な節税保険は以下のような特徴を持つ。

  • 貯蓄性が高く、支払った保険料に対する解約返戻金の割合が高い
  • 貯蓄性が非常に高いにもかかわらず、支払う保険料の全額、あるいは半額が経費扱い

会社経営者にとって、『貯蓄するけど毎月の積立額がなぜか経費算入できる』とか聞いたら夢のような話であろう。たいていの『節税保険』は『解約返戻金の支払保険料に対する返戻率』と『保険料の損金扱いによる節税効果』を合わせてただ利益を積み立てるより有利な資金運用を実現してくれる。

生命保険会社はあの手この手で『節税保険』を開発し、もはや生命保険と呼べるのか怪しいものまで開発している。

そして、中小法人の経営者がこれに飛びついているのだ。

節税保険の運命を握っているのは国税庁!

こうした法人向けの節税生命保険はかねてより金融庁が問題視し、たびたびニュースのトピックスとなる。しかし、金融庁はあくまで顧客保護の観点から生命保険会社に注意・警告・指導をしているに過ぎない。金融庁がどのように動こうと困るのは販売自粛などの対応を迫られる生命保険会社であり、すでに加入したりこれから加入する顧客である法人は決定的には困らない。せいぜい『ああ・・あの節税保険販売停止になったのね・・・便利だったんだけどな・・』程度だ。実際には便利でもなんでもないのだが、それはここでは置いておこう。

さて、多くの法人が恐れなくてはならないのは、生命保険とドンパチする金融庁ではなく、法人そのものとドンパチする国税庁の存在だ。

あなたは『節税プランの生命保険が節税プランとして機能しているのは国税庁が(今のところ)何も言わないからだ』ということを知っているだろうか。

節税プランの保険は『貯蓄性が非常に高いにもかかわらず、保険料が損金算入できる』という定義だが、保険料を損金算入できるのはあくまで『国税庁による法律の解釈』でしかない。国税庁が『法律の解釈』を変えればある日突然『その節税保険は損金算入を認めない』ということになりうるのだ。

変わる前に加入してしまえばよい?

国税庁が解釈を変えるというのはそのような生易しいものではない。きちんと過去遡及(過去にさかのぼって追徴課税)してくるかもしれない。曰く『もともと保険には法律上、損金算入を認めていないと解釈される』などと国税庁に言われればアウトだ。その場合はきっと裁判になるだろうが・・・。過去遡及しなくとも、突然それ以降の損金算入が認められなければ、『節税保険』として加入していた保険はメリットを失うのだ。解約することになるのだろうが、その時まだ解約返戻金の額が十分なものでなければ損をするのは一方的に顧客の法人側となるのだ。

建前を完璧に素知らぬ顔の生命保険会社

このように行政の意向次第で節税保険の運命は危うい状態に置かれているのはわかっただろう。今は『節税保険の保険料の損金算入』が認められている契約でもいつそうでなくなるかはわからないのだ。

この点も生命保険会社はホームページやパンフレット等で以下のように指摘している。

税務の記載に関しましては、○年○月現在の税制に基づいて作成しております。将来的に税制の変更等により経理処理が変わる場合がありますのでご注意ください。

要するに『将来、制度が変わって損金算入できなくても知らないよ?ちゃんと言ったからな!』ということだ。保険会社としては当然のリスク管理だろう。

しかし実際に販売するセールスたちまでここまで説明しているとは限らない。節税メリットを前面に押し出して、『将来はどうなるかわからないけどね』ということをきちんと説明していないことは非常に多い。

そして、仮にセールス等から口頭で説明を受けていなかったとしても、契約時に保険会社から交付されることになっている重要事項説明書等にこれらの記載があり、加入者は保険会社から説明を受けたことにされてしまうのだ(書面を受け取ったという署名まで契約ではさせられる。)。この点で裁判で争ったとしても、契約説明時の録画・録音などない限りは、顧客側は非常に不利な立場になる。

かくして突然損金算入ができなくなって苦情を入れても泣き寝入りとなるわけだ。

このような問題があるのが節税保険というわけだ。

時限爆弾節税保険を売り逃げする無責任な生命保険会社の営業所長たち

法人向けの節税保険は生命保険会社の内勤総合職が好んで売る傾向がある。

生命保険会社の内勤総合職は3~4年程度の期間で異動を繰り返し、営業現場では営業所の所長という立場で仕事を行う。法人向けの保険は知識が多い営業所長が前面にでて販売を行うことが多い。まあ生命保険セールスが法人向け保険をきちんと理解できるほどのレベルにないのもあるが・・・。

さて、3~4年で異動を繰り返す営業所長たちはこのまさに『売り逃げに適した節税保険』を売りまくる。売ったあと税金の法律や解釈が変わり『節税保険』が『節税保険でなくなる』としても、そんなことは知ったことではない。たいてい売った後に短期間で異動なのだ。顧客からの苦情で苦労するのは後任者である。顧客側でも『担当者が遠方に異動でしてしまい・・・』と言われたら目の前の契約当事者でない営業所長を責めても仕方ないだろう。そして生命保険会社としては前述の通り『重要事項説明書等で説明されています。重要事項説明を受けた上でのあなたの署名もあります(実際に重要事項説明書に目を通す人は多くない)』と素知らぬ顔を通すわけだ。

このように営業所の一時的な成績目当てに手っ取り早く売り逃げできる商品が節税保険なのだ。

実際に顧客担当者であるベテランの生命保険セールスたちは『節税保険』が明日をも知れない商品だと分かっているので売りたがらない。ベテランセールスたちは異動などなく、ずっとその地で保険を売っていかなければならないのでいつ苦情になるかわからない『節税保険』など売らない(そもそも法人向け保険の知識に乏しい)。売りたがるのは内勤の無責任な営業所長たちが多い。

経営者の皆様、通常の生命保険セールスと違って知識のありそうな営業所長だからといって油断してはいけません!!

発売して2年弱で販売停止になる生命保険って・・・

生命保険はひとつの契約に10年・20年と付き合っていく商品だ。当然商品として長期間有効性が保障されていなければならない。『この生命保険は亡くなったときに3000万円の保険金が支払われますが、5年後には無効になるかもしれません』という保険を誰が買うだろうか。

よってマイナーチェンジはあるものの生命保険商品が発売停止になることはあまりない。あるとしても一時払いの貯蓄性商品が中心だ。

しかし、2019年2月14日に驚きの事態になった。

多くの大手生命保険会社が『返戻率が50%を超える法人向け保険の販売を停止した』というのだ。発端は国税庁がまさに『節税保険』の損金算入の件について見直しを検討していることだ。そして中には2017年4月に発売された商品もあるのだ。長期の契約を扱う生命保険会社がたった2年弱で販売停止になるような商品を発売していたのだ。ちなみにこの最近売られるようになって2年弱で販売停止になった保険は『傷害(災害)死亡重点保障型定期保険』などと名付けられている。そしてホームページやパンフレットにはやはり以下のような記載が。

2018年8月現在の法人税基本通達には災害死亡重点保障型定期保険に関する規定はなく、当HPに記載の災害死亡重点保障型定期保険の経理処理方法につきましては、2018年8月現在の定期保険に関する通達を根拠としており、これらの経理処理方法について当社が保証するものではありません。

要するに節税になるかどうかはやはり自己責任だということだ。こんなこと説明されれば誰も入らないと思うが・・・

そして、きっとその2年弱で『これは御社の節税に貢献できる商品です』というような文句で売られまくったのだろう。そして金融庁や国税庁の怒りに触れ販売停止に追い込まれた。売った先の数多の(注意事項の説明を受けなかった)法人からは『大丈夫なのか』『話がちがう』とねじ込まれているだろう。そして生命保険会社は『契約時に税制が変わることはありうると説明してある』と強弁するのだろう。

節税保険は将来にリスクのある商品だから加入はそこまで理解したうえで!

以上、法人向けの節税プランの生命保険は国税庁の機嫌次第でどうにでもなってしまうリスクがあることをお伝えした。制度次第であなたは追徴課税という憂き目になるリスクすらあるのだ。その時生命保険会社は一切責任をとるつもりはないし、知ったことでもないのだ。

2019年2月時点では多くの保険会社が『節税保険』の販売を自粛している。

しかしほとぼりが冷めれば新たな問題ある『節税保険』を開発して素知らぬ顔で法人経営者に売りつけにくるだろう。これはもはや生命保険会社と行政とのいたちごっことなっている。問題のある商品と分かっていて節税保険を経営者に売っていることを忘れてはいけない(そうでなければ2年弱で販売停止になる商品など生命保険であるはずがない)。

これから法人向け保険を検討する人も『節税保険』ということを強調した生命保険にはリスクがあることをきちんと覚えておこう。

他にも節税保険を検討する際に気にしなければならないことは多い。『法人の生命保険に関する疑問のまとめ』の記事は法人向け保険についてあれこれまとめてある。必ず目を通しておこう。