生命保険の掛け捨てかそうでない保険どちらが有利か!
世の中の消費者を悩ませる普遍的な課題だ。そして多くの自称専門家が『あっちが有利』『こっちが有利』と煽っている。
ちなみに私は『生命保険の存在意義など掛け捨ての生命保険にしか存在しない』と思っている。
しかし矛盾するようだが『掛け捨ての生命保険と掛け捨てでない生命保険を比べると掛け捨てでない生命保険のほうが有利』だとも思っている。
言い換えれば、私は『現実的に掛け捨てでない生命保険のほうが数字上有利なことは認める!しかしそれでも私は掛け捨ての生命保険こそ必要だ!』と考えている。
しかし、早とちりしないでほしい。原理原則の話をすると実はどちらにも差がない。差を作っているのは保険会社の運営のせいである。まずは掛け捨てと掛け捨てでない生命保険の間に、本質的には有利不利がないことを説明しよう。そして、保険会社の運営のせいで掛け捨てでない生命保険が有利になってしまうことを説明しよう。さらに、それでも私が掛け捨ての生命保険をお勧めする理由を説明しよう。
ちなみに本稿は異常に長い。全部読んで理解できたら、生命保険の何が高くて何が安いのかきちんと見分けられるようになるだろう。
生命保険はギャンブルと同じ
あなたは競馬をやったことがあるだろうか。別に競輪でもサッカーくじでもよい。株式投資やサマージャンボ宝くじでもよい。
これらのギャンブルはあなたが最初投票券を買い、確率であなたの投票券の番号と一致した場合にお金がもらえるのだ。簡単な宝くじはいくらもらえると期待されるか
もっとも簡単な宝くじを考えてみよう。
今あなたは100円で宝くじを1枚買った。番号が1番から1000番まであり、当たりの番号はたった1つだ。もしあなたのくじが当たりの番号だった場合は10万円もらえる。
この場合、当たりくじを引く確率は0.1%だ。またお金がもらえるのはほとんどの場合0円だが、0.1%の確率で10万円もらえる。数学的には期待値という考え方で、このくじが平均していくらもらえるかを判断する。
その計算式は、もらえる金額×確率を、もらえる金額のパターンごとに計算し、それを足し算していく。
この場合では、(0円×99.9%) + (10万円×0.1%) = 0 + 100 = 100円 となる。
このくじは平均的に100円がもらえると期待されるわけだ。1回や2回このくじを引くとおそらく0円だろうが、何百万回と繰り返せば、一枚当たりのもらえた金額は100円に収束するだろう。
ちなみに、このくじを買うために必要な費用は1枚100円なので、結局こんくじは期待値から考えると損も得もしないくじということになる。
競馬の場合
競馬は当たりくじのパターンはたくさんあるし、金額も投票の状態により変わる。運営者(JRA)は全体として払い戻し率を70%から80%の間で設定している(法律で規定されていて、JRAのホームページに載っている)。
これは何を意味するのかというと、馬券を100円買えば概ね70円から80円当たると期待される。
何も考えず馬券を買い続ければ、2割から3割損をするようにできているのだ。
サマージャンボなどメジャーな宝くじの場合
競馬よりなじみがあり、手軽な方法のギャンブルとしてサマージャンボ宝くじなどがある。私も母によく買わされにいったものだ。これも法律により還元率が定められていて、50%を超えてはならないと規定されている。実際のジャンボ宝くじの還元率をみるとほぼ50%弱の数字になっている。
これは、宝くじを100円買えば、おおむね50円程度しかもらえないと期待され、買った金額の5割も損をすることになる。じつは競馬をやって、何も考えず適当な数字を買ったほうが儲ける確率は高い(結局は損をするだろうが)。
株式投資の場合
株式投資は株の値段が上がったり下がったりする。株の場合は上がる確率や下がる確率が不明なのがやっかいだが、上がる確率も下がる確率も同等と考えると、還元率は異様に高い。ネット専業の証券会社で日本株を売買すれば手数料率は0.1%程度まで抑えられるので、1万円分株を買い、そして売るするたびに手数料0.1%ずつとられるとすれば、損をする分は手数料分だけとなる。その還元率は99.8%にもなる。まあ、それでも100%を下回っている以上、損をするのだが・・・
このように株式投資は何も情報がなければ、手数料分だけ負ける商品と期待される。
掛け捨ての生命保険の場合
生命保険の場合は期待値(還元率)を計算する際は非常に単純だ。生命保険運営の基本原則として、『収支相当の原則』というものが存在している。全ての保険商品の保険料はこの『収支相等の原則』が始まりとなり決められる。
死亡保険の場合の収支相等の原則
保険会社が受け取る保険料 × 加入者数 = 保険会社が払う保険金 × 保険金を支払う人数
死亡保険の場合、保険金を支払う人数はすなわち、加入者のうちの死亡者数だ。上の式を変形すると
保険会社が受け取る保険料 = (加入者のうちの死亡者数 ÷ 加入者数) × 保険会社が払う保険金
2番目の式のカッコ内は(加入者のうちの死亡者数 ÷ 加入者数)となっていいて、これは人間の死亡率と取ることができる。
最終的に
保険会社が受け取る保険料 = 死亡率 × 保険会社が払う保険金
と変形できる。
具体的な例を考えると
30歳男性が1年間で死亡する確率を仮に0.01%とすると、30歳男性が1年間の間に死亡した場合5000万円の生命保険に加入したとする。これを上の式に当てはめると
保険会社が受け取る保険料 = 0.01% × 5000万円 = 5000円
となる。
実際の計算は解約率を考慮したり、運用利率を考慮したりするのだが、この辺りは無視する。
一方、保険金がもらえる期待値を計算してみよう。
保険金が支払われる確率は0.01%で、もらえる金額は5000万円だ。
0.01% × 5000万円 = 5000円
なんと期待値の計算と保険料の計算が一致した。実は保険料の計算は、平均してもらえると期待される保険金の金額と一致するようになっている。
さて、この生命保険というくじは5000円支払って、平均して5000円もらえると期待されている。つまり、還元率は100%だ。
数学的には生命保険は損も得もしない商品なのだ。
掛け捨てではない生命保険の場合
掛け捨てでない生命保険を考えてみよう。
先の30歳男性の例と同様に考えてみよう。1年間で死亡する確率は0.01%だ。今度は貯蓄性の保険を開発してみる。1年後に生存していたら5000万円、1年間の間に亡くなってしまっても5000万円もらえると考えてみよう。
保険料を計算する式は収支相等の原則からスタートしよう。
保険会社が受け取る保険料 × 加入者数 = 保険会社が払う保険金 × 加入者のうち保険金を支払う人数
今開発した保険で加入者のうち保険金を支払う人数は、加入者のうち『死亡する人数+生存している人数』だ。『加入者全部じゃねーか』などと突っ込んではいけない。ここでは後の計算のため分けることが重要だ。また保険会社が払う保険金も生存していた場合の保険金と死亡した場合の保険金に分ける必要がある。
式を変形しよう
保険会社が受け取る保険料 × 加入者数 = 死亡した場合に保険会社が払う保険金 × 加入者のうち死亡する人数 + 生存していた場合に保険会社が支払う保険金 × 加入者のうち生存している人数)
保険会社が受け取る保険料 = (加入者のうち死亡する人数 ÷ 加入者数 × 死亡した場合に保険会社が払う保険金) + (加入者のうち生存している人数 ÷ 加入者数 × 生存していた場合に保険会社が払う保険金)
(加入者のうち死亡する人数 ÷ 加入者数)とはすなわち、死亡率で、(加入者のうち生存している人数 ÷ 加入者数)とはすなわち生存率で、(1-死亡率)で求められる。
これらを代入すると
保険会社が受け取る保険料 = 死亡率 × 死亡した場合に保険会社が支払う保険金 + (1-死亡率)×生存していた場合に保険会社が支払う保険金
さあ具体的な数字を代入してみよう。
死亡率0.01%、死亡した場合の保険金額5000万円、生存していた場合の保険金額5000万円だ。
保険会社が受け取る保険料 = 0.01% × 5000万円 + (1-0.01%)×5000万円
保険会社が受け取る保険料 = 5,000円 + 99.99% × 5,000万円 = 5,000円 + 49,995,000円 = 5000万円
どうもこの保険は5000万円の保険料を支払う必要があるようだ。
一方、受け取る保険金の期待値はどうなるか。
5000万円 × 0.01% + 5000万円 × 99.99% = 5000円 + 49,995,000円 = 5000万円
結局、支払う保険料と受け取る保険金の期待値が同じ値なので、やはり還元率は100%だ。
掛け捨て部分がもう少し多い貯蓄性保険の場合
もう少し保険会社が売っている保険らしくしてみよう。
1年間の間に死亡した場合は保険金5000万円、1年後生存していた場合は10万円の保険金が受け取れる保険だ。
死亡率は先ほどと同様のものを使う。
先ほどの式に当てはめてみよう。
保険会社が受け取る保険料 = 死亡率 × 死亡した場合の保険金 + (1-死亡率) × 生存していた場合の保険金
数字を代入してみよう。
保険会社が受け取る保険料 = 0.01% × 5000万円 + 99.99% × 10万円 = 5000円 + 99,990円 = 104,990円
一方、受け取る保険金の期待値は
5000万円 × 0.01% + 10万円 × 99.99% = 104,990円
やはり、支払う保険料と保険金の期待値は同じとなり、還元率は100%だ。
生命保険は掛け捨ての場合と掛け捨てではない場合を比べても還元率は同じ
これまで見てきたように、宝くじや競馬、株式などと同様に還元率を考えた場合、掛け捨てかそうでないかで還元率に差はでなかった。生命保険が収支相等の原則という大原則により運営されている以上、あたりまえなのだが、実際に数字の例を使ってみるとわかりやすい。
掛け捨ての生命保険と掛け捨てではない生命保険で有利不利などないことがわかっただろう。
しかし大事なことを説明しなければならない。厳密に言うと、生命保険の還元率は100%ではない。先ほど株式の還元率を説明した際、『証券会社に払う手数料分負ける』という話をしたのを覚えているだろうか。
生命保険の還元率は競馬や宝くじにも劣る?
生命保険は経費や利息、利益を考えなければ、先ほどのように還元率はきれいに100%となる。しかし、現実の生命保険会社はシステム費用や、人件費、その他諸々の経費、株主への配当金、などなど、出ていくお金がたくさんある。あるいは、保険会社が支払う保険金は確率通りにきれいに動くとは限らないので、余裕資金を貯める。
これらの経費、その他の金額がえげつなく高いのだ。
消費者が支払う保険料のうち保険会社の経費に回る割合をライフネット生命という保険会社が公開している。
例えば、30歳男性が保険期間10年、5000万円の定期保険に加入した場合、支払う保険料は月4,340円だが、そのうち保障に回るお金は3,333円(全体の77%)、保険会社の経費に回るお金が1,007円(全体の23%)になる。
さきほどの話を覚えているだろうか、支払う保険料は平均して受け取る保険金の期待値だということを。
保障に回る保険料がまさに受け取る保険金の期待値だ。この場合では3,333円だ。
還元率は77%だ。
なんと競馬の還元率と大差ない。業界でもかなり安いと言われている保険会社ですらこうなのだ。
別の年齢、性別ではどうか。若い女性は比較的少額の生命保険に入る。
ライフネット生命で20歳の女性が10年、1000万円の定期保険に入るとどうなるか。
支払う保険料は月547円と安いが、そのうち保障に回る保険料は242円(全体の44%)、経費に回る保険料が305円(全体の56%)だそうだ。正直な生命保険会社なのはいいことだが、場合によっては経費のほうが多く払っているではないか。
50%未満では宝くじレベルの還元率にすら劣るかもしれない。
実はライフネット生命など良心的な会社だ。
ある保険会社など、保障の内容がほとんど変わらないのに、ライフネット生命の2倍以上の保険料をとる会社がある。
どこの保険会社でも人間の死亡率の計算は大きく異なるはずもないので、保障にかかる保険料は変わりようがない。仮に保障にかかる保険料が一緒だったとして、全体の保険料を2倍にするとどうなるか考えてみよう。
先ほどの30歳の男性の例では、支払う保険料が倍になると月8,680円になるが、保障にかかる保険料は変わらない。同じ10年・5000万円の定期保険だ。保障にかかる保険料は3,333円とする。なんと経費にかかる保険料は5,347円となり、全体からの割合は61%程度になる。
なんと還元率は驚きの39%になる。
さきほどの20歳の女性を例にとると目を覆うばかりの結果が出る。
あるお高い保険会社は20歳の女性が10年・1000万円の定期保険に入ると、ライフネット生命の倍の保険料がかかる。月1,094円だ。
さて、保障にかかる保険料は変わらない。仕組み的に同じ商品だからだ。保障にかかる保険料は242円だ。そして、経費に掛かる保険料はなんと852円となり、全体の77%となる。
もはや言葉もでない!還元率は23%だ!
いくつか例を挙げたが、現実にこのような商品が存在しているのだ。なんとか価格競争力を上げようと努力している保険会社とそうでない保険会社の保険料差は場合によっては3倍以上に膨らむことがある。効果がまったく同じ商品なのにだ!
あなたが払う保険料の大部分が保険会社の経費と言ってもよい。加入する保険会社を間違えると保障を受けるために保険に加入したのか、保険会社に給料をあげているのかわからなくなってしまう。
掛け捨てでない保険は経費率が小さい
掛け捨てでない保険、貯蓄性保険などとも呼ばれる保険は上で説明した経費率が小さい。
貯蓄性保険を標榜しながら、還元率が90%とか元本割れすることが明らかでは誰もそんな商品は買わないだろう。貯蓄性商品はその商品性から保険会社の経費率、利益率を大きくできない。そのため生命保険セールスにとって貯蓄性商品はあまり実入りのいい商品ではない。保険会社にとっても同様だ。
経費、利益を無視すれば、掛け捨ての保険も貯蓄性保険も先に説明したとおり、損得などなく、還元率は100%だ。
だか現実には経費率に段違いの差があるので、還元率に大きな差がでてしまう。
結果的に数学的には貯蓄性商品のほうが有利になってしまうのだ。
それでも貯蓄性商品より掛け捨ての生命保険を勧める理由
経費率の差で数学的に貯蓄性商品が有利なのは認める。
十分な資金があって、同じ金額を掛け捨ての保険と、貯蓄性の保険それぞれ同じ期間同じ金額を投資したら、貯蓄性の保険に投資したほうは1%くらいお金が増え、掛け捨ての保険は30%資金を減らしているかもしれない。それでも掛け捨ての保険こそ重要なのだ。
掛け捨ての保険こそ、希少価値で、保険としての存在意義を主張しているのだ。
貯蓄性保険は存在意義がほとんどない。なぜなら、貯蓄性保険で投資するよりもっと有利、あるいは安全な投資方法などたくさんある。貯蓄性保険をわざわざ選ぶ必要性がないのだ。
また貯蓄性保険に限らないが、生命保険は解約する際に解約控除という厳しいペナルティがある(保険会社が勝手に決めているものだが・・・)。この解約控除のせいで資金の自由な活用に制限が出るのが貯蓄性保険の大きなデメリットだ。
例として貯蓄性保険を利用してお金を貯めるなどお勧めできない理由を書いた記事が以下のものだ。
また貯蓄性保険で保障を全部賄おうとするとどうなるか書いたのが以下の記事だ。
貯蓄性保険と違い、掛け捨ての保険は少ない支出で大きな保障を準備できるというのが最大の特徴だ。これは他の金融商品では実現できないものだ。
車で死亡人身事故を起こした際の賠償金、自分が所有する家が全焼してしまった場合の建て直し資金、自分が死亡してしまった場合の遺族の生活保障。いずれも一般人の貯蓄や資産では賄いきれないリスクだろう。そのために掛け捨ての保険が存在している。自動車保険、火災保険、生命保険など。
いずれも保険料を負担することで、保険会社がそのリスクを肩代わりしてくれる。少ない負担で!
この機能こそ保険に求められる機能だということを忘れてはいけない。
もう一度言おう!
貯蓄性商品など似たようなものを銀行でも証券会社でも買える。下手をすればタンス預金でもできる。だが掛け捨ての保険は保険会社でしか買えない。自分で今すぐ大きな保障を用意するのはできない。
掛け捨ての保険を中心に保障を考え、そしてそのコストを最小限にすることを次に考えよう。
効率的にコストを削る方策を提供するのが当サイトのメインコンテンツだ。
低コストで十分な保障を得られることを知ってほしい。そして掛け捨ての保険の魅力を堪能してほしい。