掛け捨ての生命保険は必要か?不要か?

掛け捨ての生命保険が必要か不要か。

掛け捨ての生命保険の役割を勘違いしたり、『掛け捨てと貯蓄性の保険どちらが得か』などトンチンカンなことで悩んでいる人は、そもそも保険と言う商品の本質を理解していないことが多い。

そして、よくわからないまま無駄な保障に入り、貴重なお金を浪費し続ける。

こういう人は、無駄に多機能な使いもしないスマホや家電製品などを『たくさん機能があってお得』とかいいながら、実際には1割も使いこなせていないのだろう。

結論を言っておくが、生命保険が役に立てる場面など限定的だし、本当に生命保険でしかできない機能だけに期待して生命保険に加入するべきだ。

そもそも保険の役割とは?

私の勝手な定義だが、保険と言う言葉は『大多数の人からお金を集め、そこから本当に困った人のためにお金を給付する』という意味だと考える。

この機能以外は、保険というシステムをわざわざ利用する必要はないからだ。

特に『本当に困った』という言葉がポイントであって、自分では対応することのできないリスクに直面することを言う。

分かりやすいところでは、自動車を運転する際に人身死亡事故を起こせばその賠償金額は数千万から数億円となることもあるが、そうした巨額の賠償金支払いリスクはたいていの人にとっては対応することができない。事故を起こすリスクは低いとはいえ、実現してしまったら大変なことだ。そのため多くの人がお金を少しづつ拠出し、事故を起こしてしまった人のために保険金を払うことで巨額の賠償金リスクに対応する。
掛け捨ての保険は少量の負担で大きなリスクに対応できる商品となる。少量の負担であれば多くの人が購入できるようになるメリットがある。

このような巨額の賠償金リスクに対応できる機能は誰でも手軽に手を出せる商品の中にはない。もちろん貯金などで対応することはできない。自動車事故を起こした際の巨額の賠償金リスクは多くの人にとって自動車保険でしか対応できない。だからこそ自動車保険を買うことにメリットがあるのだ。もっとも自動車を運転しない人にとってはメリットはほとんどない。

掛け捨ての生命保険が必要になる場面と不要になる場面

生命保険においても上の自動車保険のときと同様のことが言える。

『自分だけでは対応できない』リスクに備えるために掛け捨ての生命保険を買うことに意味がある。逆に言えば、『自分だけで対応できる』程度のリスクであったり、『自分には関係のないリスク』であったり、『生命保険じゃなくても対応できるリスク』であれば生命保険を買う必要はない。つまり掛け捨ての生命保険を買うことのメリットは非常に限定的であることをまず覚えておこう。

自分だけでは対応できないリスク

生命保険はあくまでお金を払ったりもらったりする機能しかないので、『自分だけでは対応できないリスク』とは言っても経済的なものに限られる。例えば『死亡することそのもの』は生命保険で対応することはできない。しかし、『死ぬことで生じる遺族の経済的なリスク』には対応できる。
一般に家族を持つ人は、自分が亡くなってしまった場合に残された遺族の生活がきちんと成り立つか心配する。私もそうだが子供が小さいならなおさらだ。
10年、20年と家族が日常生活を送っていくうえでかかる費用は通常数千万円にもなる。世帯の収入の大部分を担っている人が亡くなると、残された家族は経済的に立ちいかなくなることが多い。貯蓄が少ないならなおさらである。
こうした『自分では対応できない』経済的リスクに対応するために生命保険に加入する意味がある。繰り返しになるが、突然な経済的リスクには貯金で対応することはできない。貯金では必要な金額に届かなかったり、時間が足りなかったりするからだ。

自分だけで対応できるリスク

生命保険会社が発売する保険商品にはあまりにもおせっかいな商品が多い。まるで小学生が登校する際にあれこれ持ち物を確認するお母さんのようだ。

特に医療保険はそれが顕著である。

公的な健康保険制度が全世界の中でもかなり発達している日本において、生命保険会社はわざわざ入院費用の心配をしてくださるのだ。

公的な健康保険制度はそれこそ異常なほどの手厚い保障を提供してくれる。『広く、そして深く』だ。あらゆる階層の人に、病気だろうが健康だろうが、擦り傷から脳卒中まで、どんな病院で治療を受けようとも、自己負担はせいぜい3割でいいという大盤振る舞いぶり。そしてその自己負担額もある程度(たいていの所得の人は1カ月8万円強)に達すると、自己負担が0になるという隙のなさ。

ああ・・・公的健康保険の宣伝になってしまった。

一方、生命保険会社の医療保険はどうだろうか、たいていの人にとっては入院しようが手術しようがせいぜい自己負担額が8万円強に抑えられているというのに、入院日数に応じて給付金をだし、手術した場合にも別途給付金を出すと言うおせっかいぶり。いったい1カ月8万円程度の医療費を出せない人間がどれほどいるのか。1カ月の医療費が(自己負担分だけで)8万円に到達すること自体がまれだし、しかも入院や手術をしないと生命保険会社はおせっかいを焼いてくれない。

もし自己負担額に上限がなく青天井だというのなら、長期入院などは大きな経済的リスクになり得るので、『自分だけで対応できる』リスクではなくなってしまうかもしれない。その時は医療保険が(限定的ながら)役に立つかもしれない。

でも、そうではない。

本当にまれに起こるかもしれない、自分で対応できる程度のリスクに保険で備える必要などない。

自分には関係のないリスク

自分が負っていないリスクのためにわざわざ備える人は少ないだろう。プロサッカー選手なのに東京ドームでデッドボールを受け骨折するリスクに備える必要はないし、あなたがアメリカ大統領弾劾裁判にかけられるリスクについて心配する必要もない。

生命保険においても同様だ。

経済的に困る遺族がいないのに自分が亡くなった後の誰かの生活費について心配する必要はない。これは多くの独身の人に当てはまるかもしれないし、共働きの夫婦なども該当するかもしれない。

こうした今あなたが負っていないリスクについて心配して、生命保険に加入したりするとただお金を垂れ流すだけになるので注意しよう。意外にこのような加入の仕方をしている人は多い。

もちろん状況が変わればこの限りではない。

生命保険以外でも対応できるリスク

老後の生活資金のために年金保険など貯蓄性の生命保険で対応する愚かな人がいる。

老後の生活資金はたいていの人にとって長い期間をかけて貯めていくものだが、長い期間をかけて貯めるなら別段保険に頼る必要はない。生命保険で保障と同時に積み立てを行うことで損がなくなると勘違いしている人が、生命保険で貯蓄する傾向にあるが、貯蓄性の生命保険はただの『掛け捨ての生命保険+貯蓄』の商品であるだけだ。むしろ、両方の機能が合わさっていることで解約などを考えた際柔軟に対応することができなくなる。スマホを買って、後から電話機能だけあればいいと思っても、分離できないのと一緒だ。

貯蓄性の生命保険に入るくらいなら、掛け捨ての生命保険に入り、同時に銀行預金するのと効果はほぼ変わらない。『生命保険のほうが利率がいい』とか言っている人もいるが、ほんのわずかな利率の差のために犠牲になるのは、『いつでも引き出せる』ことと『預金保険』の存在だ。生命保険は固定的な契約である以上、金利の変化にも弱いから物価の上昇に弱い。

1年先の未来ですら予測困難な時代に20年も30年も固定的な契約で貯蓄性の生命保険に入る気が知れない。

ああ・・また話がそれたな。

老後の生活資金は確かに生きていくうえでリスクとなるが、貯めるという行為は他に得意な金融商品がいくらでもある。他の商品でもできることをわざわざ専門とは言えない生命保険でやることにはメリットはないし、デメリットですらあるということだ。

なんのために生命保険に入るのか

結局のところ、生命保険に入ることの目的は非常に限定的だとわかる。

貯蓄性保険に入っても他の金融商品で対応できるので、貯蓄性生命保険に加入する意味は失われる。

すると生命保険商品で検討する価値があるものは掛け捨ての生命保険だけになる。

銀行や証券会社の商品では貯蓄や投資はできるが、少ない費用で大きな保障を準備する掛け捨ての保険商品は発売していない(せいぜい生命保険会社の代理店でしかない)。

生命保険商品で検討価値のあるものとして掛け捨ての生命保険だけにしぼられたら、あとは掛け捨ての生命保険が必要か不要かを判断するだけだ。

すでに『自分には関係のないリスク』『自分だけで対応できるリスク』にわざわざ備える必要がないことを指摘している。大きな死亡保障を準備しなくとも誰も困らないならあなたは生命保険と関わりはないし、お金持ちなら遺族の生活保障は生命保険でなくとも可能かもしれない。また、すでに世界最高レベルの公的医療保険に入っている日本人は、医療費関係で直面するリスクは大きくない。よって掛け捨ての医療保険などは不要だ。

さあ、残った人はどのような人だろうか。

遺族のために大きな生活保障が必要で、かつすぐにはその金額を準備できない人、つまり自分だけでは対応できないリスクがある人だ。

もうあなたはどんな生命保険が必要か、あるいは不要か分かっただろう。

繰り返すが貯蓄性の生命保険は他でも対応できる商品があるから不要で、医療保険は心配するリスクが大きいものではないから不要だ。少ない費用で大きな掛け捨ての生命保険のみ、『必要な』人が検討すればよい。

すると、必然的に余計な生命保険に入らず、費用の負担はわずかなものになるだろう。

もちろん、さらに保険料の負担を抑えるために保険会社の選び方も重要なのは言うまでもないが、生命保険は掛け捨ての大きな保障が必要になるかもしれないが、他は不要ということが分かっただろう。

あとは詳細を詰める段階で、必要な保障金額を求めたり、安い保険会社を探すだけだ。