掛け捨ての生命保険がもったいないと思うあなたに素朴な質問

世の中には掛け捨ての生命保険に加入することに『もったいない』と思う人が多い。

いったい何がもったいないのだろうか。

まあ、生命保険に入ること自体、生命保険会社の無駄な運営のコストを払うことだから、その点では確かにもったいない。

生命保険など必要最小限に抑えきって加入することには全く同意する。

しかし、『掛け捨ての生命保険に加入して平穏無事に過ごしたら、ただの保険料の払い損だ』という観点の『もったいない』ならまったく同意できない。ああ・・・数学を理解できない人ならそう思っても仕方ない。いや、まて、数学を理解できない人でも競馬の払戻金や宝くじについては深く理解できる人もいる。

それなのに生命保険となると『掛け捨ての生命保険はもったいない、貯蓄性の保険のほうがいい』とかトンチンカンなことを言うのだからどうしてなのだろうか。

結論をを言おう。掛け捨ての生命保険だろうが、貯蓄性の生命保険だろうかもったいないのは生命保険会社の運営費に消える部分だけだ。

生命保険は宝くじと一緒

当たる確率1000万分の1で、当たったら2億円の賞金のくじがあったとしよう。この場合、くじの価値を期待値という考え方で表す方法がある。期待値は高校数学で習う概念だ。たいていの日本人なら知っているはずだ。このくじを買ったら平均でいくらもらえると考えられるかが期待値の考え方だ。このくじの場合は簡単に当選金額×当選確率で算出できる。このくじの当選金の平均、というか期待値は20円と考えられる。

※宝くじの当選人数と当選金の関係のイメージ(実際には平均はもっと0円に近い方だし、2億円の当選人数のグラフは見えないくらいだろう)

今例に挙げた宝くじの場合、上図のように『全か無か』のような当選金額の分布になるが、それでも平均では20円返ってくると期待されるのだ。ゆえにこの宝くじの価値は胴元の運営費を無視すれば1枚あたり20円と計算される。

競馬で期待値を考えてもよい。競馬は馬券を購入したら、だいたい購入金額の70%から75%程度が配当金として返ってくる。ありていに言えば平均的には損するギャンブルだ。残りの25%から30%はいわゆる胴元の取り分(運営費とか利益とか)だ。100円の馬券を購入した場合の配当金の期待値は概ね70円から75円と判断できる。仮に期待値を75円とすれば、馬券100円あたりの価値は75円と判断できる。

※競馬の当選人数と当選金の関係のイメージ

競馬の場合は買った馬券によっていろいろな配当率がありうるから、先の宝くじの場合と違い、当選金と当選人数の分布は上図のように適度にばらけるだろう。

生命保険も同様に考える。

仮に3000万円の死亡保険を考えると、受け取る保険金の期待値は『3000万円×加入者の死亡確率』の値に一致する。とは言っても生命保険の保険金は0円か、全部もらえるかの『全か無か』の分布となる。

※掛け捨ての生命保険の支払人数と保険金の関係のイメージ

この生命保険の価値も先の競馬や宝くじと同様に、期待値で評価する。実際にもらえる保険金額が極端な分布になっているだけで、生命保険としては確かに期待値の価値があると評価される。

よって、掛け捨ての生命保険は確かに価値を持っていると評価できるが、保険金がもらえなくて『もったいない』などと評価するのは、ただ単純に運が悪かっただけにすぎない。ようするに『もったいない』ただの感情的な意見である。

ただし、生命保険も競馬と同様に胴元(生命保険会社)の取り分があるだけ、生命保険も平均的には負けるギャンブルと言える。『平均的に負けるギャンブルであるから、生命保険に入るのはもったいない』と考えるなら理解できる。

さて、貯蓄性保険と掛け捨ての保険で『もったいない』に違いはあるのだろうか。もちろんない。

先も言った通りすべての生命保険は加入者が受け取る保険金の期待値は支払う保険料と等しくなるようになっている。掛け捨ての生命保険と貯蓄性の生命保険の違いは受け取る当選金と確率にばらつきがあるだけだ。

非常に貯蓄性の高い保険を考えると、例えば満期で必ず10万円もらえる生命保険があったとしたら、100%の確率で10万円もらえるというだけで、もらえる当選金の期待値は10万円だ。数学上はこの生命保険の価値は10万円となる。

※貯蓄性の高い保険の支払人数と保険金の関係のイメージ

一方、掛け捨ての生命保険はどうか、1%の確率で亡くなり1000万円もらえるが、何もなければ0円という場合を考えてみよう。この場合、もらえる保険金の期待値は10万円と評価できる。数学的にはこの保険の価値も10万円と判断される。

※1000万円掛け捨ての生命保険の支払人数と保険金の関係のイメージ

結局のところ、掛け捨てか貯蓄性が高いかの違いはもらえる当選金の確率と額の偏りが大きいか小さいかの違いでしかない。

掛け捨ての生命保険が『もったいない』か貯蓄性の生命保険が『得』なのかなどという議論は、100%の確率で10万円当たる宝くじと1%の確率で1000万円当たり残りははずれの、両方同じ値段の宝くじを比較して『どちらが得か』と考えているようなものだ。どちらも期待値では10万円で数学的には価値は同じだ。

宝くじで当選金が多い方を期待しながらはずれてしまい『やっぱり宝くじを買うなんてもったいない』と言うのは単なる結果論で感情的になっているに過ぎないが、『掛け捨ての生命保険なんてもったいない』と言うのもこれと大差ないことだ。

自動車保険と生命保険にいったいなんの違いが?

掛け捨ての生命保険がもったいないと言う人がいかに感情的に物を言っているかわかる話がある。

生命保険に入っている人は自動車を持っている人も多く自動車保険に入っているだろう。

掛け捨ての生命保険に加入し『掛け捨ての生命保険がもったいない』と言い文句を言いながら、自動車保険については『掛け捨てでもったいない』などとは言わない。むしろ『自動車保険がなかったら怖くて自動車なんか乗れないものね』などと積極的に存在を肯定さえする。

自動車保険など生命保険と違い問答無用で掛け捨てだが、生命保険との扱いの違いはなんなのだろうか。生命保険もないと怖いから加入しているのではないのか?それならば掛け捨ての生命保険に入っても『生命保険がなかったら万が一のとき困るもんね』と肯定的に掛け捨ての生命保険を評価するべきだ。自動車保険は必要なコストと認識しているのに、掛け捨ての生命保険は必要なコストと認識できず『もったいない』といい、本質的にもらえる保険金の期待値が変わらない『掛け捨てじゃない生命保険のほうがいいね』などと言うのはどういうことなのか。

答えは簡単だ。ただ感情で判断し物事を知らないだけだ。ここまで読んだあなたはそのようなことはないはず。

それでも生命保険に入るのはもったいない

貯蓄性保険も掛け捨ての生命保険も本質的には『どちらが損でどちらが得か』などない。給付の期待値はどちらも一緒だ。そして自動車保険などと同じように生活に必要なただのコストに過ぎない。保険金が支払われるような事態などそもそもあったら困るようなことばかりなので保険金が支払われるような事態にならないに越したことはない。掛け捨ての生命保険に加入するなら払う保険料は全て無駄になる覚悟で加入しなければならない。

だからと言って、差がないからと言って貯蓄性の生命保険に加入するのはまったくお勧めできない。貯蓄性保険も本質的には『掛け捨ての生命保険』+『貯蓄』の商品に過ぎない。そして多く保険料を払えばその分胴元(生命保険会社)に支払う分も多くなる。『貯蓄』機能など他の金融商品でコストが低いところがあるのだから、わざわざ多くのお金を事業者に支払う必要などない。

結局のところ生命保険に入るのは掛け捨てだろうと掛け捨てじゃなかろうと『もったいない』のだ。貯蓄性の生命保険など入らず、掛け捨ての生命保険にも必要最小限に抑えて、胴元『生命保険会社』の運営費用や利益になってしまう完全な無駄を少しでも少なくするべきだ。

そうでなければあなたは20年、30年と貴重なお金を無駄にし続け、気づいたら『300万円が生命保険会社に奪われてました』なんてことになる。もしあなたがそのような貧乏人になる賢くない行為をしたくないなら、適切に生命保険を選び、あるいは適切に生命保険を選びなおすことが必須だと確信する。