法人向け生命保険の中で節税プランなどと呼ばれる生命保険。
この種の節税保険の危険性は以下の記事でも指摘しているが、節税になるかどうかはあくまで行政の気持ち次第だ。
『生命保険が法人の節税プランになるかどうかは国税庁の気持ち次第!』行政が明日から『この保険の支払保険料は経費として認めない』と言われれば節税保険は節税保険でなくなる。
まず法人が生命保険を節税対策として考える場合はこのリスクを頭に入れておかなければならない。
恐ろしいことに生命保険会社や生命保険セールスは節税保険が節税保険でなくなるリスクを明確に指摘してこないし、国税庁の通達等に詳しいはずの税理士等ですらこの種のリスクを大して説明せず、生命保険を活用した小手先の節税方法をホームページ等で解説しているのだ。ご丁寧に10年後くらいまで解約返戻金と節税効果の表まで載せて・・・
はっきり言って、節税保険に関する金融庁と生命保険会社の攻防の歴史を見るに10年先まで加入した節税保険が10年後まで節税保険であるかどうかは不透明と言わざるを得ない。
このような顧客である法人経営者の不利益をきちんと説明しない似非専門家たちの意見を鵜呑みにしないことだ。金融商品を取り巻く状況は常に変わるのだ。
さて、今回は節税を目的とした生命保険の『行政の考え方が変わるリスク』以外の『節税保険のリスク』を解説しよう。
今のところ『保険料の損金算入が認められている節税保険』であっても、使い方を誤るとなんのために加入したか分からず、ただ保険会社に手数料を支払っただけということになりかねない。
節税保険の『行政リスク』以外のリスクとは・・というか『節税保険』という呼び名から怪しいのだが、『節税保険は節税効果などなくただの利益の繰り延べに過ぎず税金は1銭も安くならない!』ということだ。
一般的な法人向け節税保険の経理処理
法人が生命保険に加入するとその保険料は経費扱いだったり、積立金扱いだったりする。経営者にとっては何らかのお金を払ったらそれが経費になるかどうかというのは重要な関心ごとだろう。
一部の長期間の定期保険、逓増定期保険、がん保険などはその支払保険料の半額・全額が損金算入が認められている。積立をしながらその毎月の貯蓄額がなぜか経費扱いされるという特殊な状態だ。漫然とお金を貯蓄するより、支払保険料で節税できるため有利となる。
さてこの『節税保険』の経理処理を見てみよう。
まずは保険料を支払うときだ。
今回は支払保険料の半額が損金算入でき、かつ5年後解約する際は支払った保険料の100%が戻ってくるものとしよう。
※保険料を支払う時の経理処理
支払う保険料の半額が『保険料積立金』として資産計上され、残りの半分が『支払保険料』として経費となる。保険料を払うので『現金・預金』が減る。
ここで今期決算で利益が計上されることが見込まれる場合はこのような節税保険に加入し利益を圧縮してしまうのだ。上記の契約で言えば50万円の支払保険料があるので、利益が50万円圧縮できる。将来解約すれば支払った保険料は全部返ってくるのだから問題ない。積立だと思えばいいのだ。積立しながら利益を圧縮できるとはなんてすばらしいのだ。
そして、5年間保険料を払い続け、毎年50万円の利益を圧縮し続けるとしよう。
そのころには資産計上された『保険料積立金』は250万円になっているだろう。
さて、いよいよこの保険を解約しよう。ここまで500万円の保険料を支払ってきた。5年たてば100%の解約返戻金があるのだから、解約返戻金額は500万円だ。ここまで利益を圧縮してきたうえ、払った保険料が全部返ってくるとはなんと素晴らしいのか!
さて、解約するときの経理処理は以下のようになる。
※解約返戻金を受け取る時の経理処理
あれ?ちょっとまてよ?返ってくる解約返戻金は500万円だけど、資産計上している『保険料積立金』は250万円しかないぞ?ってことは足りない250万円は経理処理上『収益』ってこと?あれ?利益?税金取られるじゃん・・・
そうなのだ。生命保険会社や生命保険セールスは『節税保険』などと言っているが、それまで圧縮していた利益の分は解約したときにまるまる利益となってくるのだ。あれ?これって『節税保険』に入ってもいつかは必ず利益の分の税金払わなければいけないんじゃないの?別に支払う税金減ってないんじゃないの?
もう分かっただろう。『節税保険』に入っても実際には全く支払う税金が減らずに、いつかは税金を払わなければならないのだ。しかも下手をすると節税保険に入らない場合より税金が増える可能性すらある。
上の例では、毎年50万円を『支払保険料』として経費計上していたが、毎年50万円以上の利益があって初めて利益は圧縮される。当たり前のことだ。
もし、圧縮できる利益がなければただ損失を増やすだけになる。
『損失は繰り越せるから大丈夫でしょ。』と思われるかもしれないが、法人の会計上損失の繰り越しが認められるのは最大9年間だ。
では以下のような契約を考えてみよう。
支払保険料の半額が損金算入でき、かつ15年後解約する際は支払った保険料の100%が戻ってくるものとしよう。
毎年支払う保険料の経理処理は先ほどと同様だ。これは企業の決算が赤字だろうと黒字だろうと毎年同じだ。
※保険料を支払う時の経理処理
しかし、先ほどと違い、この生命保険を契約した法人は1年目に利益を出すことができなかったとしよう。その後は毎年50万円の利益を出すことができたとしよう。
さて、15年間でこの企業は初年度以外の14年間毎年50万円の利益を圧縮できたので、700万円分の利益に対して税金を払わずに済んだ。
そして15年目に満を持して解約する。
それまで資産計上された『保険料積立金』は750万円、支払った保険料総額は1500万円になり、解約返戻金は1500万円となる。
その経理処理はというと以下のようになる。
※解約返戻金を受け取る時の経理処理
あれ?15年間で圧縮できた利益は700万円分だったけど、今回解約返戻金受け取って利益が750万円になってる。ああ・・そうか、初年度は圧縮する利益がなくて損失になったんだったんだな。じゃあ、損失の繰り越しをして・・・え?損失の繰り越しができるのは最大9年?あれ、節税保険なのに、支払う税金増えとるじゃないか。この保険入らなければ、税金払うの700万円分の利益に対してでよかったのに・・・・
何を言いたいか分かっただろうか。節税保険はただの利益の繰り延べに過ぎないのはすでに説明したが、それすら毎年きちんと損金計上する支払保険料分の利益があってのことだ。その条件が満たされない限り、損失の繰り越し年数次第ではむしろ支払う税金が増えることにすらなりかねないのだ。
あなたの会社では節税保険に入っている間、確実に毎年利益を上げ続けることができるだろうか。そうでなければヘタをすれば支払う税金が本来より増えていた!なんて事態になりかねない。まあ極端な例だが、『節税保険』にはこうしたリスクもあるのだ。
もはや『節税保険』と呼ぶのは無理がある。『節税保険(笑)』くらいに思ってよい。
法人向けの節税プラン生命保険を有効に活用するにはどうするのか
下手をすると節税保険どころか支払う税金が増える極端なリスクはひとまず置いておいて、『節税保険』が実質的には利益の繰り延べに過ぎない点についてどうすればよいのか。
この点は、計画的な資金計画があれば問題は解決されうる。
例えば、解約返戻金を得るタイミングで利益計上される金額と同等の『設備投資を計画しておく』とか『退職金支払いに充てる』などが一般的な使い方だ。
解約返戻金による利益が発生してもその分他の経費を計上できるイベントがあればよいのだ。
逆に言えば、そうした経費イベントがなく、なんとなく『節税保険』だと言われて加入すると、結局解約返戻金をもらうタイミングで利益に対する税金を払わなければならなくなるので意味がない。利益の金額で変わる税率によっては、『無理して利益を減らさず毎年ちょっとずつ税金を払っていたほうがよかった・・・』なんてこともありうるのだ。
もう法人向け節税プランの生命保険が、本当に『節税』になるかどうかはたくさんの条件がいることが分かっただろう。
その条件は少なくとも3点あり、経営者の思い通りにならないことばかりだ。
- 行政によって『節税保険』の保険料の経費扱いが認められ続けること
- 毎年利益が上がり続けること
- 解約返戻金を受けとる段階で設備投資や退職金支払いなど大きな経費イベントがあること
要するに私は『節税目的』で法人向け生命保険に加入するべきではないと思っている。あまりにも不確定要素が大きすぎるからだ。パンフレットの数字だけ見せられるとなんだか節税保険は素晴らしい生命保険のように思えるが、そうではないのだ。
法人向け生命保険を検討する場合は『節税になる』とかいう言葉に騙されず、『法人の生命保険に関する疑問のまとめ』を参考に真に必要な場合だけ加入するようにしよう。