AIの話題が連日世間をにぎわせている。
生命保険に近い業界では、『あなたに最適な投資信託をお勧めします』という触れ込みのAIによる投資信託ができたりしている。
生命保険業界でも『あなたに最適な生命保険を提案します』などというAI生命保険セールスが登場するかもしれない。
その時人間の生命保険営業はAI生命保険営業に駆逐されてしまうのだろうか。
AIによる生命保険営業はどのようなものになるのだろうか
AIによる生命保険営業が登場したら、おそらくインターネットや生命保険会社の店頭の端末で顧客の情報、家族構成や性別年齢、年収などはもちろん、多数のアンケート的な質問事項に答え、その傾向によりAIが考えるその顧客にとって最適な生命保険が提案されることになるだろう。
AIの生命保険営業は同時に多数の顧客の相手をでき、遠く離れていても顧客はすぐにAI生命保険営業にアクセスすることができる。成約をしても生命保険会社はAIに成果報酬を支払う必要はない。食料は電気を与えておけばよいし、システムエンジニアがメンテナンスするくらいだ。
人間の生命保険セールスがすることをかなり効率的にできるだろう。仮にそれほど洗練されていないAIであっても、大多数の生命保険セールスのセールススキルを上回るであろう。それほどほとんどの生命保険セールスの質は低い。AI生命保険営業が実用化されたら、生命保険セールスはもはや食べていける職業ではなくなってしまうのだろうか。
生命保険会社のAIは効率的だが中立ではない
AIによる判断がされると、顧客にとってはデータから冷静に無感情に自分に合った商品をAIが推奨してくれると期待できる。人間による判断よりますます正確な判断がなされるようになるだろう。
しかし、AIは顧客にとって中立的な存在ではない。AIはプログラムの塊であり、そのプログラムを作るのは結局人間である。
仮に生命保険営業AIができたとしても、元のプログラムを作るのは人間で、それは生命保険会社の人間である。当然のように生命保険営業AIはその生命保険会社の利益になる範囲で作られるだろう(ホームページには『中立的な判断でAIがあなたに最適な生命保険を提案します』などと書いてあるだろうが)。A保険会社の生命保険営業AIが、たとえ顧客にとってそちらの方が有利でもB社の生命保険を推奨することはおそらくないだろう。結果どうなるか。A社の生命保険を推奨するAIとB社の生命保険を推奨するAI、その他それぞれ立場が異なるAIが乱立することだろう。
生命保険会社にとっては効率的になったかもしれないが、顧客にとっては結局生命保険を選ぶために中立的な立場が必要になるのは変わりがない。
では独立したファイナンシャルプランナーが、中立的な立場で顧客にとって適正な生命保険を推奨するAIを作ったらどうなるだろうか(仮に『生命保険相談AI』と名付ける)。
おそらく、そのAIは精度に問題のあるAIとなるだろう。AIによる判断は、判断のもとになる膨大なデータが必要だ。例えば、画像判断などはすでに実現されている技術だが、AIが一枚の画像を見て何かを判断するためには、判断のもとになる膨大な画像データが必要だ。その数は何万、何十万という数にもなる。精度を向上させようと思うとさらに必要な枚数は増えるだろう。
生命保険相談AIも膨大な顧客属性のデータが必要になるかもしれない。33歳の女性で、既婚者がいて双子の3歳の男の子と女の子がいて、仕事は○○自動車の経理部門で課長補佐で、帰宅は5時半頃、健康診断の結果は何か、趣味趣向はどのようなものか。
人間の特性とはこのほかにも色々なことがある。このような膨大なデータを準備するのはGoogleのようなインターネットの巨大企業でもないと準備することは難しいだろう。小資本の生命保険エージェントくらいに準備できるデータ量ではない。
生命保険を中立的な立場から推奨する人間のファイナンシャルプランナーは必要
結局のところ、真の意味で中立的な立場で顧客にとってよりよい生命保険を提案する仕事は、人間が担うことになるだろう。しかし、生半可なスキルでは、稚拙なAIにすら、人間が行うコンサルティングは負けてしまうだろう。生命保険会社の販売手数料目当ての似非ファイナンシャルプランナーは生命保険営業AIに駆逐される。
生命保険セールスもファイナンシャルプランナーもAI以下にならないようスキルアップにますます励まなければならないだろう。