赤ちゃんにまで生命保険が必要だと本当に思ってるの?

赤ちゃんが生まれた・生まれようとしている人が、子供の将来の期待や不安に満ち溢れているのはわかる。

『どんな子に育つか』『健康であれば満足』『この子には苦労させたくない』などなど、漠然とした想いは誰にでもあるだろう。

それが知らないうちに、『赤ちゃんのうちから英語脳を作ったほうがいい!』だの、『なるべく早いうちから運動する習慣を!』だの、『保育園を早く見繕っておかないと!』だのと、やること・したいことは具体的になっていく。

ああ、もちろん保育園は必要な人は多いことはわかっている。生まれてから心配するようでは遅いことすらあり得るのだ。

英語教育や運動についても、まあ必要だと思うならやらせればよい。ちなみに私も英語教育に挑戦したが、○十万無駄にしただけだった。なぜあのような不用意な決断をしたのか、仮にもFPの端くれがあのようなお金の無駄遣いをするべきではなかった・・・。当時の私を肥溜めにでも叩き込んでやりたい気分だ。英語教育をするなら『5年10年続ける!』という断固たる決意がなければいかなる方法も無駄に終わるのでよく考えたほうが良い。運動は1歳を過ぎたくらいから、場所によっては水泳を習わせることが可能だ。通わせる時間と金に余裕があるなら最もおすすめだ。

ああ・・・話がそれたな。

そう!『子供のため!』という強力な大義名分のもと、あらゆる心配をし始めるのが赤ちゃんが生まれる前後の親の心境なのだ。

その中で『赤ちゃんのための生命保険はどうしよう・・・』と悩むトンデモ親がいる。

もう一度言おう。

『ト ン デ モ 親』

どういう理由で生まれたばかりの赤ちゃんに生命保険が必要になるのか、ぜひともお伺いしてみたいものだ。きっと火星人に会うより奇妙な体験をすることだろう。

赤ちゃんのための生命保険の種類とは何があるか

心配しなくてもよい。あなたが『赤ちゃんの生命保険はどうしようか・・・』などと考えているのはあなたが愚かだからではない。単に無知なだけか、生命保険セールスに騙されたかだ。無知なのは世間の人ほとんどがそうだから気にする必要はない。問題は後者の場合だ。『赤ちゃんのために!』という親としては逃れ難い大義名分を利用して、『生まれた赤ちゃんにも生命保険があると安心です!』などという勧誘をするセールスはとても多い。かつて、そうやって売っていた私が言うのだから間違いない。

そんな私のような悪徳セールスに騙されないようにするためには、一般的に『赤ちゃんに必要な生命保険』と言われるものを知っておく必要がある。知識がなければ確信を持ってセールスを追い返すことも難しくなり、あなたも安心できない。

赤ちゃんに必要だ(と言われる)死亡保険

死亡保険とは、加入者(正確には被保険者)が亡くなった際に、保険金受取人に死亡保険金が支払われるという生命保険としては最も基本的なものだ。『赤ちゃんのための生命保険』とか言って、生まれた赤ちゃんを被保険者とした死亡保険というのが、『赤ちゃんのための死亡保険』の一つだ。

自分でも意味のわからないことを言っているのはわかる。赤ちゃんが万が一なくなったとしてその死亡保険金はいったい誰が必要とするのか?冷酷なお金の世界では、子供が生まれれば親の経済的負担は跳ね上がる。これもまた冷酷な話だが、もし赤ちゃんが亡くなってしまえば、そうした親の経済的負担は無くなる。死亡保険金が必要な事態などありえない。

セールスもさすがにその辺を分かっているはずだ。よって『万が一の葬儀代のために』などと縁起でもないことを平気で言う。希望と未来に満ち溢れている親に向かって『赤ちゃんの葬儀代』などという言葉を出すことがそもそも信じられない。仮に葬儀代の心配をするにしても、起こる確率がとても低い葬儀に『何百万円必要か』などと心配しないだろうし、葬儀など突き詰めれば20・30万円でできる。死亡保険金ほどの大金などなくとも対応できるはずだ。

起こる確率も低く、リスクになる金額も低いとなれば、そういったことに対して保険は必要ない。

『赤ちゃんには死亡保険が必要だ』と言われることがある。『赤ちゃんが困らないために親に死亡保険をかける』というならわかる。むしろ、『赤ちゃんの生命保険が必要かどうかなど悩む前に、あなた自身の生命保険について悩め!』と言いたいくらいだ。

要するに『赤ちゃんのための死亡保険など不要!』ということだ。

いいか!赤ちゃんの死亡保険は不要だからな!

あなたがとんでもないことをしないようにこれだけ注意しているのだ。

赤ちゃんに必要だ(と言われる)医療保険

赤ちゃんのための生命保険ならば、医療保険のほうがまだわかりやすい。ああ・・・勘違いしないでほしいが、『まだわかりやすい』とは言っても『赤ちゃんに医療保険が必要だ』とは言っていない。

どうあがいても、医療保険は赤ちゃんに不要だ。

不要な理由の結論を言ってしまえば、赤ちゃんや子供が日常でかかるケガや病気は、公的医療制度が大人以上に手厚くほとんど医療費がかからないし、逆に多額の費用と時間がかかる難病の前では民間医療保険などまるで無力だからだ。

まず、赤ちゃんに対しては公的な医療制度が大人より断然に手厚い。

ほぼすべての地方自治体が『子供の医療費は0にする』政策を持っている。健康保険は通常医療機関にかかれば自己負担分があるものだが、地方自治体の政策により『子供が医療機関にかかった場合の自己負担分を行政が負担する』ことになっている。自治体によって小学生までだったり、高校生までだったり適用期間はまちまちだが、少なくとも赤ちゃんに関してはどこも自己負担0だ。

さて、医療機関にかかった際に自己負担が0になるというなら、いったいどうして赤ちゃんに医療保険が必要になるというのか。

言うまでもなく不要だろう。

え?赤ちゃんが難病になったらどうするかって?ああ・・・悪徳セールスの私なら『もし赤ちゃんが難病になったりした場合には長期で医療費がかかります。入院も長くなるでしょう。そんなもしものときでも治療の選択肢は多いほうがいいですよね?医療保険はそうした費用面の手助けができます』とか言うだろう。本当に悪い奴だ!

ちなみに言っておくと民間医療保険など難病でかかる費用の前では焼け石に水もいいところだ。民間医療保険は入院給付金や手術給付金を出すのが一般的な保障だが、逆に言えば入院したり、手術したりしなければ給付金は出ないのだ。1入院あたり給付日数が60日制限だったり、手術給付金は健康保険対象の手術に限られたりする場合があるなどと制約が多い。もし難病にかかり治療するなら、入院すれば長期入院だし、昨今の給付限度日数が絞られた医療保険は歯が立たない。もちろん在宅療養になる場合もあるがそれでは医療保険は完全に無意味だ。

もし先進医療特約に期待しているなら的外れだ。先進医療は対象になる病気とその手術の種類がかなり狭い。しかも指定医療機関でなければ受けられないというオマケ付。年間で先進医療が実施されるのは100例ほどだ。もちろん大半が大人の治療だ。子供のたくさん種類がある難病治療に先進医療特約などまったく役に立たない。

要するに、ちょっとした病気・ケガは医療保険などなくても健康保険で十分すぎるし、大きな病気の前では医療保険など無力なのだ。役に立つ場面が極めて限定されているのに、あなたは毎月1000円・2000円払いたいだろうか。

赤ちゃんに必要だ(と言われる)学資保険

赤ちゃんのための生命保険と言えば学資保険が本丸・最後の砦だろう。

学資保険に加入して子供の将来の教育費や学費の備えをするのが一般的な使い方だ。

もしあなたが現時点で10年後・20年後の未来が見通せる、あるいは10年後・20年後の未来に起こることを一つに絞って賭けるギャンブラーなら、ぜひ学資保険に入るといいだろう。ヤフーファイナンスで『明日の日経平均株価は20000円を超えるだろう』などと書いた(自称)アナリストが、翌日見事に予想を外しているのが日常茶飯事な先の見えない世界で。

学資保険はほとんど貯蓄の商品だ。保険会社選びに失敗しなければ、学資保険は満期になって支払った保険料の分よりやや増えた状態でお金が戻ってくる。何も問題が無いように見える。

しかし、学資保険に限らず生命保険商品は契約後数年間は解約控除というものがある。解約控除とは解約した際の解約返戻金額が支払った保険料よりかなり少ない状態を言う。これは契約から解約までの期間が短いほど多くなる。
つまり学資保険などに加入すると、契約後他の事由で学資保険の解約返戻金が必要になったら、元本割れすることを覚悟しなければならない。要するに解約しにくい契約となってしまう。

そうでなくとも長期の契約となる貯蓄性生命保険はインフレにひどく弱い。毎年1%のインフレ率だったとしても15年も契約が続けば、そのころのお金の価値は単利計算でも契約した時から15%は減る計算になってしまう。まあ、毎年インフレ率が1%になるかはわからない。わからないが、長期で固定的な契約をすることがどれだけ無神経か分かるだろう。

まあ、これらのリスクを無視してもわざわざ学資保険で備える意味が無い。学資保険などただの貯蓄に過ぎないのだ。銀行預金でも投資信託でも資産運用をする手段は他にいくらでもある。解約控除や長期の固定契約というリスクを負ってまでわざわざ学資保険に入る意味がそれほどあるとは思えないのだが。

赤ちゃんに必要だ(と言われる)低解約返戻金型終身保険

学資保険代わりに低解約返戻金型終身保険という保険を勧められることがある。

赤ちゃんや子供のためというが、契約者も被保険者も親だ。赤ちゃんの将来のために準備する保険だろう。

これは払い込み期間中の解約返戻金の金額が通常の終身保険の5割・7割などと抑えられた終身保険だ。その分支払う保険料が通常の終身保険より若干安くなるというものだ。払い込み期間満了後は通常の解約返戻金額に戻る。

これは学資保険より性質が悪い。学資保険ですら解約控除が一定期間あるというのに、この低解約返戻金型終身保険は払い込みが満了するまでずっと解約控除状態だ。学資保険以上に解約しないことが前提となる保険だ。

こんなものに加入したら、もはやその契約は15年・20年と解約できない契約になる。いや、解約はできるが大きく元本割れすることを覚悟の上でだ。

株式投資でもして15年・20年の運用期間のうち値上がりタイミングを待つ方がよほど有効な資産運用になりそうだが・・・

保険会社には可能な限りお金を渡さないこと

これまで見てきたように赤ちゃんのための生命保険など一切不要だ。死亡保険や医療保険は言うに及ばず、学資保険や終身保険も無用だ。だいたい生命保険会社というのは金融業界の中で最も遅れている業界で非効率な運営が目立つ組織だ。そのような会社にお金を預けると、多額の手数料をとられるのだ。

この赤ちゃんのための生命保険のように、まったく不要だったり代替手段があるような商品のために生命保険会社にお金を払うと貧乏体質の元となる。

『赤ちゃんの将来のため』と思っていたのにいつの間にか『なんか多くお金取られてる割に役に立たないんだけど』ということにならないようにしたいところだ。