賢い人が外貨建て個人年金保険なんて不要だと考える理由

外貨建ての個人年金に入る人は『私は金融リテラシーがない人です』と宣言しているのと同じだ。

外貨建ての個人年金に入る人は『私は金融機関の養分になるのが好きな人です』と大声をあげているようなものだ。

え?利率が有利だから多少のリスクがあって当たり前?そんなことわかってる?

金融の世界はそんなに単純ではない。

外貨建て個人年金とは何か

外貨建て個人年金は契約期間中の運用成果によってもらえる年金額が変動する商品だ。

たいていは米国ドルやオーストラリアドル建てで運用され、さらにそれらの国の国債などで運用されることが多い。外貨建て商品であるので、為替レートの変動の影響を受ける。

年金支払い開始時点の為替レートが、契約時や保険料の支払い時点より円安であれば、円貨ベースでの年金額は増え、円高になっていれば逆に減るというパターンだ。また、外貨建てで運用している国債などの金利の状況によっても年金額が変動したりする。

当然、円ベースでは払い込んだ保険料総額より年金総額のほうが低いなどということも起こり得る。

保険会社によってはある程度の部分まで運用成果を保障しているものもあるが、どんな運用成果が保障されているのかが素人目には分かりにくい。

平たく言えば非常に複雑な商品なのだ。

金利が高い通貨はそれだけ円高・外貨安になりやすい傾向にある

高齢者が金融機関の人間にごり押しされて外貨建て保険に入るのはまだ理解できる。金融機関の職員が半分詐欺みたいな営業トークをしてよくわからないまま高齢者は加入しているからだ。もちろんそれ自体は問題のある行為だが、騙されて加入してしまう高齢者に非はない。

しかし若い人間でこのような外貨建て個人年金に入る人間がいるのだから驚きだ。しかも、『多少のリスクはあっても外貨建てのほうが金利が高いから魅力的』などとしたり顔で言ったりするのだ。

『金利が高い』というのは別にお得でもなんでもない。もし日本円の金利が高かったとしてもそれだけではなんの得にもならない。

通貨の金利というのは分かりやすく言ってしまえば、その通貨の信用度を表したものだ。金利が高い通貨は信用度が低く、金利が低い通貨は信用度が高いということだ。企業が借金するときの金利の考え方と大差ない。

通貨において信用度が低い、つまり金利が高いという状態は、多くの人々がその通貨の将来の価値を信じていないことを表す。

言い換えれば金利の高い通貨は時がたつほどその価値が減りやすい傾向にあるということだ。『100円で買えていたパンが、10年後には200円になっていた』このような通貨は信用度が低く金利が高い。

一方で、信用度が高い通貨、すなわち金利が低い通貨は『100円で買えていたパンが、10年後には105円になっていた』というふうに金利が高い通貨に比べて価値が減りにくい傾向にある。

日本円はほとんどどの通貨に対しても金利が低い。米国ドルやオーストラリアドルなど比べるまでもないくらい低い。
これは日本円は米国ドルやオーストラリアドルに比べて価値が減りにくいことを意味する。それらの通貨との比較で言えば、常に円高外貨安になる圧力がかかっていると言える。

為替レートの変動は決して円高、円安の確率が50%:50%ではない。金利が低い日本円はもともと円高になりやすい通貨なのだ。ゆえに、米国ドルに投資しても金利の分儲かったとしても、為替差損で相殺される運命にあり、結局トントンというのが為替と金利の基本的な理屈なのである。(もちろん為替レートや金利はそれだけで決まらないので、現実には儲かったり損をしたりするが、それはもう完全にギャンブルの範疇だ。)

例えばトルコリラや南アフリカランドなど人気と言われる高金利通貨で見ると一目でわかる。これらの通貨は平気で金利が7%とか10%とかになったりするが、10年、20年の長期のチャートなどでみると一貫して激しい円高傾向にある。金利で増えた分が、為替差損で消えるのがわかるはずだ。

※南アフリカランドの対円為替レート(毎年の終値でグラフを作成)

*左軸の数字は1南アフリカランド(ZAR)が何円で買えるかという数字。数字が大きいほどZAR高・円安。数字が小さいほどZAR安・円高。ほぼZAR安・円高傾向にあることがわかる。

だいたい、多少の為替変動があろうと外貨投資が本当に有利だったら日本円ばかり不利で、外貨ばかり有利になってしまうではないか。もしそうなら、日本人はとっくにみんな貧乏になっていなければならないが、そうではない。

結論としては、外貨投資など有利でも不利でもないのだ。

このような金利と為替レートの基本的な理論が外貨建て預金や個人年金などのパンフレットに書いてあってもいいように思えるが、法律はそんなことは求めていないようだ。

外貨建て年金など入る人は決定的に情弱

外貨投資は有利でも不利でもないことが分かっただろう。それでも外貨投資をするつもりがある人は決して外貨建て年金など入ってはいけない。

あなたは日本円を外貨に換えることでどれだけのコストがかかるか知っているだろうか。

そんなことはそこら辺の商業銀行の外貨交換レートを見ればすぐわかる。例えば日本円を米ドルに換えるとして、その時の市場為替レートが100円だったとしよう。もし1万円を米ドルに交換しようと思えば100ドル手に入りそうなものだが、銀行が交換するときはもっと不利なレートを提示される。1ドル102円くらいのレートでも全くおかしくない。市場のレートより不利なレートで交換するのが外貨を実際に交換する際の常識だ。もちろん米ドルから日本円に戻すときもやはり市場レートより不利なレートが提示される。外貨交換の機会が多いほど無駄なコストがかかるのはわかるだろう。そしてそれらの差額は金融機関が中抜きして利益になるのだ。

他にもいろいろなコストが外貨投資には付きまとう。そもそも銀行の事務員が外貨為替の事務処理をするなら当然英語が必要だろう。日本語だけでなく英語を操れる人間を雇うコストもかかるし、外貨事務をするなら日本の法律だけでなく外国の法律にも金融期間は対応しなければならない。そのための弁護士の費用なども国内投資に比べて多くかかるだろう。他にも挙げたらキリがないほど外貨投資にはお金がかかる。

それらは全て為替取引の当事者に転嫁される。

外貨建て個人年金など買う人はそれらの為替取引にかかるコストを全て負うことになる。

金利の高さが特別有利でも不利でもないことはすでに述べたが、それにもかかわらず国内資産に投資するよりはるかに多くのコストを外貨建て個人年金の購入者は背負うことになる。そしてそのコストは非常に見えにくい。もし損失を出したとしても『為替レートが不利だった』『運用環境が不利だった』でごまかされてしまうからだ。

だいたい、保険会社が熱心に売り込んでいるのだから、その時点で外貨建て個人年金などに加入するのはアウトだと分かりそうなものだが・・・

外貨建て個人年金に入るくらいなら普通に円建ての個人年金に入るか、他の外国投資をするべき

金利の高さが決して日本円に比べて有利も不利もなく、結局はトントンなのが理屈な外貨投資。それでいて、手数料は円建ての商品より圧倒的に高くかかるのだから、外貨建て個人年金など入る意味が見いだせないと分かるだろう。

もしそれでも外貨建ての投資に魅力を感じているのなら、保険商品などではなく、信託報酬の安い投資信託でも買う方がよほど有利だ。金利の高さだとか、値上がり益だとか配当だとかそのようなことを気にするのではない。ただただ信託報酬(つまり手数料)の最も安い投資信託を選べば外貨建て個人年金などより、よいパフォーマンスを上げるだろう。

1万円投資して、毎年100円必ず抜かれる商品と、毎年10円必ず抜かれる商品を比べて、どちらが有利かなど言うまでもないだろう。

そのあたりの見極めに自信がない人は大人しく、円建ての個人年金に加入するのがよい。

円建てであっても個人年金に入る意味はそれほどないが、部分的には強力な運用商品だから。

個人年金保険の効率的な選び方について知りたい人は『個人年金保険のずるい選び方!メリットを最大にして加入しよう!』を一読するとよい。