日本一若い街・長久手に思う過去に学ばない日本人

日本一若い街と言われる愛知県長久手市。

私は一時期名古屋に住んでいたことがあり、ゴルフに行く途中で長久手市を通ることが何度かあった。

もう10年以上前の話だが、愛知万博の跡地に区画整理がされてはいたが建物はまだそれほど建っていなかった。

それが今や日本一若い街と呼ばれるようになっている。

同様の街は他にも知っている。千葉県印西市だ。かの街は住みやすい街ランキングで1位・2位を争っているのだという。

こちらも何度か仕事で訪れたことがあるが、確かに建物も人も若い。

しかしお金や生活を常日ごろ論じる私としては、これらの街を見て考える。

日本人・・・というか人はいつまでたっても歴史に学ばない愚かな人ばかりだと。

かつてあった若い街

今もてはやされている長久手や印西のように、30・40年前には同じような街があった。

東京の多摩地区だ。かつてニュータウンと呼ばれ子育て世代であふれていた街はどこも老人ばかりが住む町になっている。

林立する小学校はかつて1学年何クラス抱えていたのだろうかわからないが、今では1学年1クラスとなるような小学校もある。

多摩の丘陵地をけずり作られた街はそこそこ緑が残してあるが、住む老人たちはいちいち坂を上り下りしなければならずとても不便そうだ。店らしい店は駅前ばかりで住宅地の中には大型店は愚か小さなカフェすらない。

これら多摩の街は売るにも売れず脱出することのできない老人たちの監獄となりつつある。

これは別に大げさではない。多摩地区の顧客と会うと『この不便な街で住んでいくしかない』と半分あきらめている人ばかりだ。

多摩地区に限らず日本全国このような昭和のニュータウンは存在している。

『子育て世代に便利な若い街』につられる愚かな人

多摩のニュータウン地区に住んだ(住んでしまった)人たちは私は愚かだとは思えない。彼らは前例のない大規模開発の最初の犠牲者となった。歴史にないことから学べと言われてもそれは不可能だ。

しかし、今まさに長久手や印西など『若くて便利な街』『住みよい街』という広告に釣られ郊外に家を求める人はそのような失敗例に学ばない愚かな人たちだ。
私は多摩地区の老人たちに聞いた。

私『今、新しく長久手だとかで日本一若い街といって子育て世代が集まっている街がありますがどう思うか』

かつてのニュータウンに住む人『30年後には私たちと同じ目に遭うだろうね・・・』

彼らは明確な理屈でそう言っているわけではないが、およそ真実だろう。

郊外の若い人ばかりの街に潜む当たり前すぎるリスク

郊外の画一的で便利で若い人ばかりの街というのは非常に魅力的だ。

郊外である以上土地の値段もそれほど高くなく、平均的な勤め人でも十分手が届く値段だろう。

駅前には大型のショッピングモールが併設され、子育て世代を想定して保育園や幼稚園、もちろん小学校などもどんどん建てられる。駅の周辺部にはそれを取り囲むように画一的な区画整理をされた住宅が一様に立ち並ぶ。みんな同じ家に見えるくらいだ。そこに住む人は若いうちはそこそこな生活を満喫することだろう。

しかし、20年もすれば様相は様変わりする。子供たちは独立してどんどん都市部に出ていき、残るのは老人ばかりになる。駅の周辺部以外は住宅ばかりで近所の買い物なんてできない。いちいち駅回りまで出かけることになる。そのうち介護が必要な人がどんどん増えるがもともと若い人向けを想定された街に老人福祉施設など作る余裕はそれほどない。作られてもさらに郊外になるだろう。

便利な街に引っ越そうと、自宅を売却しようとしても郊外で老人ばかりの街にある住宅などにそれほど買い手がつくとも思えない。家を購入した時の値段を大きく下回ることはほぼ間違いないだろう。結局その不便なかつての『日本一若い街』に住み続けることになるだろう。

さらに年月がたてば人が住まなくなった空き家ばかりになり、環境は悪くなりますます地価は下がる。
ちなみに多摩のニュータウンでは今猛烈な勢いで空き家が増えている。こんなことが、今『若い街』ともてはやされる地域にもでてくるだろう。

高齢化社会においてはほとんどの街が不便になり続け地価が下がる

家を買うという行為は買って終わりではない。20年、30年、50年先を見据えなければならない。

そのためどこに家を買うのかというのは非常に慎重にならなければならない。

しかし家を売る側は売る瞬間のことしか考えていない。そしてたいていの買い手も買う瞬間のことしか考えていない。最新式のキッチンがどうのこうの、近所に保育園があるかどうのこうの、買い物は便利かどうのこうのと。

ローンの返済シュミレーションを立てるのは結構だが、30年後その住んでいる土地がどうなるかまで考えなければならない。

『もし何かあれば家を売ればいい』という考えは実に甘い。不動産は値段をつけられても、買い手がつかないという事態は当たり前に起こる。ましてや魅力がなくなった土地は悲惨だ。世の中には1円でも売れない不動産が存在するほど買い手がつかない場合もあるのだ。

家を買うならその土地の歴史を調べろ

日本は高齢化社会にあり、今後ますます老人は増え、人口は減る。一般人にとっては経済力は縮小するばかりだ。一部の大都市以外はどんどんその経済力を弱めていく。これは現状避けようのない未来だ。その前提で家を買うと言うのなら、30年後後悔しないために意識することは一つだ。

住もうとする街にどれだけの歴史があるか

多摩ニュータウンにしろ、長久手にしろ、印西にしろ、新しく区画整理した街は、街としての歴史がない。

もともと原野か山だったのだ。

そのような土地にいきなり大量の人が住めば、大量の人が同じように老い同じように死に、大量の建物が同じ時期に廃墟になる。そして等しく見捨てられた土地になるだろう。

一方歴史のある街はどうか。

できてから長い期間経っている街は年齢構成にいびつなところは少ない。日本全体が高齢化社会である以上、老人が多めなのはどこも一緒だが、街のほとんどの人が同時期に老い同時期に死ぬなどということはない。衰退するにしてもその歩みはゆっくりになる。駅が近いような街であればずっと街が維持されることもあるだろう。
歴史のある街といっても京都や奈良のような歴史的建造物がある街に住むわけではない。ずっと昔からそこに街があればよいのだ。歴史が長ければ長いほど衰退はゆっくりとなるだろう。

このように漫然と新しく区画整理された若い街に住むのは将来後悔する可能性が高くなる。家やマンションを購入するときは住む町が20年後、30年後にどのようになっているか想像することが大切だ。少なくとも将来不便を強いられたり、店が近くになかったりするような街に住むべきではないだろう。